第25話 ミーシア

【ステラファス王宮】


王宮の会議室に集まった。


王家の人たちとセシリアさん、ミーシアさんも来ている。


「実は今回の旅で、クリサリスの不安定化が解消できるかもしれない

 遺跡文明品を入手しました」


「アースライ君、いつそんな物を見つけたの?」


「アルファ1です。あくまで可能性ですし、不安定化の解消には

 皆さんの協力が必要なので、この場で説明させて頂きます」


「まず、今回見つかった遺跡文明品はリンカーといいましてクリサリス同士の

プライベート・チャンネルを作る為のものです。これを使って仮想空間に会議室を作ったり、特定のクリサリスでグループを作って連絡を取り合ったりするという。

現時点では使い道の無い遺跡文明品です」


「確かに、クリサリスが10体以下の現状では必要ないわね」


「ところがメルクによると、このリンカーに手を加えてる事で、

 失われたクリサリス同士のネットワークの代用品として使えそうなんです。

 これを使えばクリサリスの感応核を安定させる事が可能になりそうなのですが、

 問題点が1つと今後の課題が1つあります」


「それは?」


「問題点は、このネットワークを作るのに、全員がイシュメラーナに行ってメルクと一緒にリンカーの調整を受ける必要が有る事です」


「それは、当然か。それじゃあ、その件は私たちがイシュメラーナに行けば解決するのね」


「はい、今後の安心の為にも、できれば協力をお願いしたいです」


「それで? 今後の課題というのは何?」


「はい、今回、クリサリスを持つ人間全員でリンカーを使用しますが。

今後、もしクリサリスを装着する人が出た場合は、その人も含めて全員でリンカーの設定をやり直す必要があるので・・・

その時はどうするかですね。もっとも増えるとは思えないのですが」


「アースライ君、クリサリスってあと何個持ってるのかな?」


「未修復の物ばかりですが、あと2個持ってます」


「それなら、この機会にミーシアさんにクリサリスを装着してもらいましょう」


エルネシアさん、なんて事を言い出すんだ。


「どうしてですか?」


「乗員の安全面もそうだけど、もう1年以上機動衛星やブランシェに乗っているのよ、今更でしょう?」


「しかし、彼女はいずれイシュメラーナ星系かファクマス星系に帰る人間ですよ、

こんな物を装着したら帰り辛くなりませんか?」


 あれ? どうしたんだろう。


 ミーシア、みんなが、あきれたような顔で僕を見ている。


 婚約者殿アーシアが心底疲れた様子でため息をついた。


「アースライ、あなた本気で言ってる?」


「すまないが、結構本気で答えているよ。

ずっと故郷の為に頑張ってきて、やっと故郷の人たちの安全な生活が確保されたんだ。今後は発展していく故郷のこれからを見たいを思うのが普通だと思うんだけど?」


「本気で言っているみたいね。ミーシア、どうするの?」


ミーシアさんが、思いつめた顔で、こちらに近づいてくる。


僕の目の前まで来て


「アースライさん、私言いましたよね。

イシュメラーナに対して私が出来る事がもう無くなった以上、

残りの人生をアースライさんに使って貰おうかと思いますって。

アースライさん、私お役に立つように努力しますから、

どうか連れて行ってください」


「いや、ミーシアさん。せっかく故郷の為に頑張って来たのに、

復興していく風景を見たいでしょう?」


「確かにそうですが、それ以上にアースライさんに貰った物が大きすぎます。

このまま故郷に帰るつもりはありません」


「いや、僕はお願い事もしたし。報酬だって後で貰うって言ったよね?」


「もちろん、あなたのお願いなら全力で叶えますよ」


「僕は・・・他人の人生を背負うつもりはありませんよ」


「私が勝手について行くんです」


ミーシアさんの決心は堅そうだ。


「わかりました。ついて来ても良いですが、条件があります」


「何でしょうか、なんでも言って下さい」


「安全の為のクリサリス装着と、ミーシアさんが興味が持てる事が出来たら、

 躊躇わずに学んでください」


「え?」


「他人から、行動を決められるのでは無く、自分の意志で決めて行動してください」


いきなり飛び込んで来たミーシアさんを慌てて受け止めた。


「どうしたんですか? いきなり危ないですよ」


「まったく、あなたは。こんな時にも他人の心配ですか? 

 そんなだから【無欲の騎士】なんて呼ばれるんですよ」


「ミーシアさん、その呼び名は初耳です。

 抗議したいので誰が言っているか教えてもらえませんか?」


「絶対に内緒です」


「それで、婚約者の前で堂々と女性を抱きしめているのは、どういう事かな?」


「アリシア・・・・・・・」


「今回だけだからね、許すのは」


「ありがとう」


ここで王様が、おそろおそる・・それでもほっとした様子で聞いて来た。


「すまないが、それでは今回見つかったのは、

 そのリンカーとクリサリスだったのだな?」


それを聞いて全員が絶句してしまった。


エルネシアさんが、あきらめて


「お父様、を見つけたんだけど今度は動かせそうに無いから気にしないで」


王様が頭を抱えている。


「大きいって、あの機動衛星みたいに大きいのかな?」


「ごめんね、お父様。




シルキスタの恒星炉の設置接続が終わったのを確認してから、


僕たちはイシュメラーナ星系に向けて出発した。


僕は今回シルキスタに乗艦して行くけどブランシェも一緒に行く。


人間6人を運ぶのに中型艦と超大型艦を動かすのは少し気が引けるが


今回ばかりはしょうがない。


「それじゃあシルキスタ。イシュメラーナ星系に向けて転移を開始してくれ。

 新しい恒星炉の習熟航行も兼ねているから無理はしないようにね。

 ブランシェも周辺の警戒を頼む」


『了解、出航します』


こうして、僕たちはイシュメラーナ星系に向けて出発した。

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