閑話 新ブライダル・シップ『ウェディカ』

惑星ネウ・ホパリア


『星間ネットワークニュースです。


現在、この惑星ネウ・ホパリアと

惑星ファーミーティア・惑星アクール・惑星ブレーナムを繋ぐ

ブライダル・シップに新たに専属艦が就任する事になりました。


永らく、この航路は別名【白い天使】と呼ばれた

超大型医療拠点艦ブランシェが、唯一のブライダル・シップでした。

この度、ブランシェはブライダル・シップの任を終え

本来の医療拠点艦に復帰する事になりました』


『専属艦の艦名なまえはウェディカ ”幸せな結婚”の名を冠する

全長約1000mの大型艦です。

純白の船体に新郎と新婦をイメージした赤と青のラインが施されています。

ブライダル・シップとして作られたこの艦は移動速度こそブランシェに及びませんが

それでも、遺跡文明の転移装置デ・リープ・ユニットを備え、常識外の移動速度で星々を渡ります。

各個室を完備、専門のアテンダントも同行しますので、より快適な環境が維持され

何より大型の送迎宇宙船ランチが船体に組み込まれていますので、到着した惑星の風景を愉しみながら、これからの新たな出会いに思いを馳せることでしょう』




【サーシャ・スターク】


『スターク艦長、出発準備が完了しました』

「ありがとうウェディカ」


想像以上の高性能AIに驚く、男女各10名のアテンダント教育も完璧だ。

ただ・・・


「ところで・・・リリノさんは、どこ?」


『部屋に生体反応があります』


「ウェディカ、起こして制御室に来る様に言ってくれる?」


『寝ているのでしょうか?』


「さあ、今までの3回は寝ていたから、可能性は高いかな」






「ウェディカ、艦内に出発のアナウンスお願い」


『ブライダル・シップ ウェディカは定刻となりましたので、

 まもなくこのネウ・ホパリアを出発いたします。

 本艦は7日後には惑星ファーミーティアに到着する予定です』


さて、これから、およそ2ヶ月、1万8千光年の旅だ

この大抜擢に報いる為にも気を引き締めていこう。




惑星ファーミーティアの衛星軌道到着


『ブライダル・シップ ウェディカは只今

 惑星ファーミーティアの衛星軌道に到着いたしました。

 第1グループ100名の方は送迎宇宙船ランチ

 移動をお願い致します』




ウェディカより惑星ファーミーティアへの送迎宇宙船ランチ降下


『只今、送迎宇宙船ランチが出発いたしました。

 この宇宙船は約1時間でダンシャ大陸宙港に到着予定です。

 進行方向右手をご覧ください、緑の大地に皆様を歓迎する

 《ようこそ、我が花嫁》メッセージが浮かんでいます。

 このメッセージは皆様の到着に合わせて

 ダンシャ大陸組合青年部によって作られました』





【アースライ】


今日はウェディカの就航から2ヶ月、1万8千光年の旅を終えた後

乗務員だけを乗せて船体や設備の不具合や整備を行う為に

ここ、ステラファス星系にやってくる。


惑星ステラの衛星軌道上のメンテナンスドックに無事入港したウェディカ


極低重力の与圧エリアに艦長サーシャさんを先頭にして

アテンダントさん達が降りて来た。


サーシャさんは背の高い濃紺の長い髪をしたスラリとした女性だ。

何故か偏光処理をした銀色のレンズの眼鏡を付けている。


なんだろうか、誰かの手荷物かな?

何かが与圧エリアの天井に向かって飛んでいく。


「サーシャさん、新規ブライダル・シップ第1次計画は無事完了ですね

 お疲れさまでした。

 後は報告書を確認後、予定通りウェディカのメンテナンスに入ります

 乗員全員に2週間の休暇ですね」


「オーナー、ありがとうございます。

 いくつか改善案についても報告書に纏めてますので

 あとで確認して頂けますか?」


ふと、違和感に気が付く・・・・


「あれ? サーシャさん。リリノさんはどうしました?」


サーシャさんは後ろを振り向いて、天井に貼りついた誰かの手荷物を指さした。


「リリノさん、何をしているんですか? 下りてきてください」





【リリノ】


あたしは、このブライダル・シップに乗ってから、口うるさい上司サーシャの話を聞き流して

快適な生活を満喫している。


勤務時間は長いが、報酬は驚く程良いし環境は快適。

しかも疲れたらAIが仕事を代わってくれる。


そして・・・・


「フードクリエイター?」


『はい、遺跡文明の食料生産装置です。このウェディカに試験導入されました』


「古代文明と同じ食べ物出されても困るんじゃないの?」


 石みたいに硬いパンとか、穀類の塊とか、動物のナニカとか・・・・・


『フードクリエイターはメニューは追加登録が可能ですので、

 既に各星系の数万種のレシピが入力されてます』


「へー、すごいのね」


『しかも、福利厚生の一環として乗務員の利用は無料となっています』


「無料かぁ~、大体そういうのって美味しくないんだよね」


そう言って、あたしはいつもの定番メニューを頼んでみた・・・・・


いつもの味を期待して口に入れる・・・・えっ?


ミーニム・バルト牛丼が・・・なんでよ、

 コレ、今まで食べて来た中で一番美味しいじゃない」


これが、無料ただ


それから、あたしは食の探求者メニューを順番に食べる者になった。






【サーシャ・スターク】


『艦長、リリノさんが大幅に摂取カロリーオーバーです。

 乗員の健康管理規定に基づき警告しましたが無視されています』


「私も注意したんだけど聞こえてないみたい。

 でも医療ポッドだけは強烈に拒否されたわ」


『艦の耐Gシートが勝手に小形のモノに取り換えられたから

 元に戻せと要求がありました』


「ファーミーティアでもアクールでも、結局下船しなかったわね」


『何か気付かせる方法はないでしょうか?』


「ウェディカ・・・鏡面シートを使いましょう」





『ウェディカ艦内 身だしなみアピアランスチェック週間

 この艦のアテンダントとして相応しい身だしなみアピアランスを見に付ける為、

 艦内の随所に鏡面シートを取り付けました。

 身だしなみアピアランスチェックに使って下さい』


「ウェディカ、おかしいよ。鏡面シートがだよ」


『光学的チェックはシートを貼る前に済ませました。不良品は存在しません』


「でも、まるで別人だよ」


『これをご覧ください』


「なによ、このホロ映像。誰なの、このみっともないのは?」


『現時点ののホロ映像です。艦長を始め他の乗員からの、これ以上の注意は

ハラスメント規定に抵触する可能性がありますので、

AIである私から指摘させて頂きました』


「そんな、バカな・・・」


『本艦は、この初任務を終えた後、ステラファスでメンテナンスの予定です。

 オーナーの出迎えを含む帰還イベントがありますが、

 リリノさんはどうされますか?』




【アースライ】


サーシャさんから、事の顛末を聞く。

「そんな事が・・・・」


「その後、リリノさんを医療ポッドに入って検査治療を行いました。

 ブレーナムの医療センターで治療と簡易暗示マインド・プリントによるカロリー制限

 医療ポッド内での強制カロリー消費プログラム睡眠ダイエットで、かなり元に戻ったんですが

 それでも、オーナーに合わせる顔が無いと逃げてます」


 「しかしフード・クリエイターでそんな事が、

  他の乗員はみんな大丈夫だったの?」


 「まったく問題ありません。念の為、カレナ王女にも問い合わせてみましたが

  そのような症例は1例も確認出来ませんでした」


 「もしフードクリエイターの使用で、

  リリノさんが体調を崩すようなら・・・・・・・」


  別に操縦士を探して、リリノさんには別の仕事を・・・何かあるかな?


  ガシッ


  「クビだけは勘弁してください」


  リリノさん、いつの間に天井から降りてきたの?


  「遅刻もしません、ウェディカに業務日誌の代筆も頼みません、

   乗客に子供のフリをしてお菓子を強請ねだったりしませんから

   どうか、クビだけは勘弁してください」


   あっ、サーシャさんが眼鏡を外した。

   なぜか僕の背中を流れる汗が止まらない。


  「リリノさん、そんなことをしてたんですか?

   遅刻以外まったく気が付きませんでした。

   艦の責任者としてキッチリと説明をお願いします。

   オーナー、明日までにリリノさんの対応策をまとめますので、

   ?」


  「拝見させていただきます」


   リリノさんが連れて行かれる。


  「艦長、ごめんなさい。もうしないから、その眼はやめて」


   僕は確信した、殺気だった花嫁候補だろうが、思いつめた花婿候補だろうが

   あの艦長サーシャさんなら大丈夫だと・・・・






ファクマス星系  航宙ポート内 飲酒可能エリア


「そういや聞いたか? 安全協会のがスカウトされたんだってよ」


「アレをスカウトって、どこの方面警察だ? 

 まさか連邦軍の臨検部隊じゃ無いよな?」


「アレが臨検? それじゃあアレと連邦のどこで出くわすか判らないのか?」


「いや、噂では、あの騎士が引き抜いていったらしいぞ」


「あの【無欲の騎士】か? まさかアレの事、知らないんじゃ?」


「ありえるぞ、なんせ今時、安全協会に逆らうバカなんて居ないだろ」


「ここに来た宇宙船乗りが真っ先に教えられるのは

 『安全協会のに逆らうな』だからな」


「ばか、その名は出すな。あの眼を思い出すだろ」


「すまねえ、つい・・・な」


「口に出す時には、間違っても他の名前で呼ぶなよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る