Episode025:死闘
大和がライゼンと出会うよりも少し前──。
昴達は竜との死闘を繰り広げていた。
第1部隊が竜を、そして第2部隊以下はその他のモンスターを請け負っている。
開戦から1時間が過ぎ、今の所戦況は互角。
ただし、竜に関してはまだまともなダメージを与えられてはいなかった。
「〈スキル:
奏多の振るった剣が衝突の刹那に爆ぜる。
本来ならば一撃で相手を屠る威力を誇るスキルだ。
「ガァッ!!」
しかし、それは通用しなかった。
硬い鱗には傷1つ付いておらず、あまつさえ鋭い爪で反撃してくる。
「〈スキル:結界〉!!」
すかさず陸が〈スキル:結界〉で奏多へと迫る爪を弾く。
「あっぶねえ……っ!! 助かったぜ、陸!!」
着地した奏多の額には冷や汗が滲んでいた。
「気を付けて!! アレをくらったらヤバい!!」
「わあってるよ」
忠告されずともそれは分かっている。
分かっているのだが、双剣を主武器に据えている奏多は近付かなければ攻撃が出来ない。
危険だからと躊躇っていたら話にならないのだ。
「2人共離れろ!!」
背後から声が響いて、陸と奏多は反射的に竜から距離を取る。
「凍てつけ──〈スキル:氷結〉」
周囲の空気が冷え込み、竜の足元が地面を巻き込んで凍りついた。
対象を凍らせる昴のスキル。
しかし、そのスキルも竜の命には届かない。
竜は有り余る力で強引にまとわりつく氷を引き剥がす。
凍らせるには、竜の身体はあまりに大き過ぎた。
だが、そもそも昴の狙いは竜にダメージを与えることにない。
竜の足止め。
それが昴の狙いだった。
そしてその試みは成功する。
足元が凍ったことで、僅かに竜の足が止まった。
「今だ。2人共」
「ああ」
「任せなさい!」
昴の両脇を2つの影が颯爽と駆け抜ける。
「〈スキル:
詩音の手から、黒い霞のような矢が2本同時に放たれる。
高速で飛翔する2本矢が狙うは黄色に輝く竜の双眸。
──果たしてそれは命中した。
眼球を抉り、深々と突き刺さる。
「ガアアアアアアッッッ!?」
これにはさしもの竜も堪らず悲鳴を漏らし、両目を覆ってたたらを踏んだ。
しかしこれでは終わらない。
「〈スキル:能力強化〉」
「〈スキル:
青藍によって強化された朝陽のスキルが炸裂する。
〈スキル:煌武千剣〉
朝陽が持つスキルの中でも、最も破壊力の高いスキルだ。
タメが必要なスキル故に朝陽は戦闘開始から今まで後方でスキルを発動する機会をじっと伺っていたが、ようやくチャンスが巡ってきた。
一撃で刈り取る──。
幾重にも積み重なった光り輝く千の刃は竜の硬い鱗すらも突き破り、肉を抉る。
鮮血が周囲を赤く染めた。
「グラアアアアッッッ!!」
されど、竜は倒れない。
数多の傷を負いながらも、鋭い爪と屈強な尻尾を無作為に振るう。
ただそれだけの圧倒的暴力。
両目が潰されている為に狙いが定まっておらず、それがかえって厄介であった。
動きが読めない。
故に、タンカー役を引き受けていた陸が食らってしまう。
咄嗟に張った結界で衝撃を軽減させることは出来た。
が、それでも後方へ大きく吹き飛ばされ、ひび割れたアスファルトに全身を強く打ち付ける。
それは死んでもおかしくない程の衝撃で。
「陸!!」
慌てて駆け寄る昴。
「うっ……うう……」
陸は辛うじて生きていた。
血を流し、気を失っているが生きてはいる。
「青藍!!」
ホッと胸を撫で下ろした昴はすぐさま青藍の名を呼ぶ。
〈スキル:治癒〉を持っている青藍はこの隊の癒し手を担っていた。
奏多達が危険を顧みずに剣を振るえるのは、偏に、後方に控える青藍の存在があるからだ。
生きてさえいれば、青藍がどうにかしてくれる。
「任せて。〈スキル:治癒〉」
昴に促され青藍は陸の治療へと取り掛かった。
淡い緑色の光が陸を包み込む。
「どうだ? 治せるか?」
「ええ……」
大丈夫だ。
この程度の傷ならば必ず完治させる。
青藍は、けれど……と継いで。
「今回の戦いに復帰するのは無理ね」
「そうか……やむを得まい。ここは任せたぞ」
「ええ」
陸のことを青藍に任せ、昴は戦線へと戻る。
相変わらず竜は、癇癪を起こしたように暴れていた。
詩音と奏多の2人が、周囲に被害が及ばないようどうにか抑え込んでいる。
「皆、陸はひとまず無事だ!!」
昴の言葉に全員が安堵する。
とは言え、陸が離脱してしまったのは隊にとってかなりの痛手であった。
陸だけではない。
一時的にとはいえ、陸の容態が安定するまでは青藍もいない。
〈スキル:煌武千剣〉のタメの時間を作れたのも、全員が揃っていてこそだ。
2人が欠けた状況では、もう1度タメの時間を作るのは難しい。
詩音の〈スキル:破弓(弐)〉と朝陽の〈スキル:煌武千剣〉で深手を負わせることは出来た。
だが、倒すには至らない。
あと1歩。
僅かに届かない。
「詩音ッ!! こいつ何とかしてくれよ!!」
竜の攻撃を軽やかな足取りで躱しながら、奏多が叫ぶ。
「無茶言うんじゃないわよ!! あんな出鱈目に動く的にどうやって当てろって言うのよ!? あんたがどうにかしなさい!!」
「おまっ、それこそ無茶だろ!! 俺、双剣なんですけど!? 今近付いたら死にますけど!?」
「大丈夫よ!!」
「なにが!?」
2人は相変わらず阿呆だが、言っていることは実際的外れでもない。
今は近付くのは勿論無理だが、遠距離から攻撃することも出来そうになかった。
いや、出来なくはないが、適当に当てても弾かれてしまうだけだ。
竜の鱗は硬い。
(さて、どうしたものか……)
思い悩む昴。
このままでは、無為に体力を消耗するだけだ。
「俺が行くよ」
朝陽が言った。
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