【二章完結】帰還した地球にはモンスターが溢れていた
白黒めんま
プロローグ
Episode001:迷子
俺こと竜胆大和が異世界へ迷い込んだのは、12歳の頃だった。
その日もいつものように公園で遊び、夕飯の前に帰路に就いた。
そのままいつもと同じ道で帰れば良かったのだが──。
俺はその日に限って近道をして帰ろうと思った。
というのも、その日の俺は遊びに夢中になって門限がすっかり頭から抜け落ちていたのだ。
誰しも一度は経験したことがあるだろう。
我が家の門限は6時。
このままでは間に合わない。
そこで、近道をすることにしたのだ。
近道をして、ダッシュで帰れば門限にはギリギリ間に合う。
そういう算段だった。
いつも近道をしないのは、その道は夕方になると薄暗く不気味な道であるからだ。
車も通れないような獣道。
ト〇ロに出てきそうなあんな道だ。
この街に残された数少ない自然。
小学生の俺がそこを通るのは、少しばかりの勇気いる。
だから普段は使わないようにしていたのだが、今日ばかりは使わずにはいられない。
俺はキレてる時の母さんが、この世で一番怖かった。
普段は温厚な母さんも、怒ると鬼より怖いのだ。
いや、マジで。
背に腹は変えられない。
俺は懸命に走った。
門限に間に合わないかも知れないという焦燥と、気味の悪い獣道への恐怖が足をつき動かした。
とは言え、獣道は子供の足でも走れば1、2分で街道へと抜ける。
距離にすれば大したことはない。
──そう、大したことないはずだった。
しかし出口には中々辿り着かなかった。
見えているのに辿り着かない。
走っているのに進んでいる気がしない。
恐怖心と焦燥感を煽る。
あの時は、本気で永遠に続くのかと思った。
だが、終わりは唐突に訪れる。
徐々に出口へと近付いてきたのだ。
あと少し。
さっきまでのあの感覚は、きっと錯覚だったのだろう。
そう、思っていた。
しかし、獣道を抜けた先にあったのは俺の知っている街道じゃなかった。
草原。
背の低い草が一面に広がる、まるで大海原のような草原。
俺はそこにいた。
道を間違えたのかも知れない。
いや、間違えるような道ではないのだが、それしか考えられなかった。
引き返そう。
そう思って踵を返した。
けれども、そこには何もない。
同じような草原が続くばかりで、通って来た獣道も、その痕跡すらもなくなっていた。
いったいここはどこなのだろう。
そこが俺の暮らす街でないことは、火を見るよりも明らか。
あの街に、こんな自然はない。
俺はとにかく足を動かした。
あてなんてない。
ただ家に帰りたかった。
知っている場所に出るかも知れないと思った。
だが現実は残酷だ。
いくら走っても、知っている場所はおろか草原から抜け出すことすら出来ない。
この草原は、いったいどこまで続いているのだろうか。
変わらない風景。
ただ、無為に時間だけが過ぎていく。
小学生だった俺にとって、それは耐え難い恐怖であった。
その内に体力は底を尽きて、地面にごろりと寝転がった。
その時にはもう周囲は闇に包まれていた。
街灯なんてない。
威風堂々と浮かぶ満月だけが周囲を照らしている。
いったいここはどこなのだろう。
いったい俺はどこに迷い込んでしまったのだろう。
強い孤独感と恐怖に苛まれ、しかし気付けば俺は眠りに就いていた。
体力の限界だったのだ。
それから目を覚ますと、俺は何故かふかふかのベットの上にいた。
硬い地面の上じゃなかった。
──ああ、そうか。
きっと俺は悪い夢を見ていたのだ。
そう思った。
そう思いたかった。
そうであって欲しかった。
しかし、それは大きな勘違いだとすぐに思い知ることになる。
知らない天井だったのだ。
木の板を繋ぎ合わせたような木目の天井。
こんな天井、俺は知らない。
俺の部屋の天井は白だ。
またしても知らない場所に来てしまったらしい。
これじゃあまるで不思議の国のアリスだ。
そんなことを思いながら起き上がると、椅子に揺られながら本を読む壮年の男がいた。
白髪混じりの髪に、眼鏡をかけた人の良さそうな男だ。
記憶を辿るが、やはり知らない人物である。
「──○○○○○○?」
男が俺に気が付いて、不意に言葉を発した。
日本語じゃない。
英語でないこともわかる。
馴染みのない言葉だった。
よくよく見てみれば、確かに日本人らしからぬ顔立ちをしている。
「あ、あの……えっと……」
俺は困った。
何せ、日本語しか分からないのだ。
日本語以外だと、でぃすいずあぺんくらいしか話せない。
そして、彼には俺の知る唯一の外国語さえも通じそうになかった。
「──○○○○○○?」
狼狽える俺に、男は首を傾げた。
やはり何を言っているか分からなかったが、今度は何を伝えたいのかは分かった。
多分、言葉が分からないのか? みたいな感じだと思って、俺は首を縦に振る。
すると男は一度咳払いをして。
「──これなら分かるかい?」
それは紛れもない日本語だった。
少なくとも、俺にはそう聞こえた。
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