Episode026:〈スキル:三十秒天下〉──前編──
「行くって、お前……。クールタイムは終わったのか? もっと長かったろう」
〈スキル:煌武千剣〉はその強力さ故、使用後にクールタイムが必要になる。
クールタイム中は他のスキルの使用を禁じられ、更には身体能力も低下してしまう。
だからこそ一撃で決められれば良かったのだが……。
しかし、それを今更言っても詮無きことである。
「ああ、終わったよ。〈スキル:煌武千剣〉も練度が上がってるからね。クールタイムも短くなったんだ」
「そうか……」
朝陽の火力は、ユニオンの中で最も高い。
スキルの練度にしてもそうだ。
竜とまともに戦えるのは朝陽を除いて他にいないだろう。
事実、ユニオンでトップクラスの実力者である奏多や詩音ですら手も足も出ないといった様子だ。
クールタイムが終わったというのなら、朝陽が前線に出るというのは多分正しい。
そうするべきなのだろう。
是非もない、と言ってもいい。
だが、朝陽はこの隊の要である。
切り札である。
その切り札を容易く切ってしまっていいのだろうかという躊躇いが昴にはあった。
もしも朝陽が負ければ、その時点で勝敗が喫してしまう。
全滅は必至だ。
それに、青藍が離脱してしまった今、先程のような火力はもう出せない。
朝陽が出ていっても、あるいは押し切れない可能性もある。
それならば、まずは自分が前線に出て奏多、詩音の両名と共に青藍が戻るまでの時間を稼ぐべきなのではないだろうか。
しかし──。
(私では、火力が足りない……)
氷系統のスキルで以てモンスターを殲滅していくというのが昴の主な戦闘スタイルだ。
しかし、その戦い方は複数名との共闘は向いていない。
大和と再会を果たしたあの時がそうだった。
見習いの隊士を引き連れていた為に本気を出せなかった。
今も同じだ。
制御の難しい氷系統のスキルでは、詩音や奏多に被弾させてしまいかねない。
2人と竜との距離が近過ぎる。
だが、離れさせるわけにもいかない。
周囲に被害が及ばずに済んでいるのは、2人が引き付けてくれているおかげなのだから。
これが陸ならばスキルを使って距離を置きつつ引き付けることも出来たのだが、ないものねだりをしても仕方ない。
また、それを2人に求めるのも筋違いも甚だしい。
よって、昴がとれる戦闘手段は自身の剣に氷を纏わせて敵を斬り付けるというものなのだが……。
それでは火力が圧倒的に不足している。
赤頭狼などの下級モンスターならばいざ知らず、竜が相手となると厳しいどこの話ではない。
はっきり言って論外だ。
出ていったとしても、大した時間は稼げないだろう。
青藍が戻るまででも厳しい。
(ならばやはりここは朝陽に……いや、しかし……)
葛藤する昴。
それを察した朝陽がぽんっと肩に手を乗せた。
「大丈夫だよ、昴。ここで決めるから」
「何か策はあるのか……?」
「勿論だ。必ず仕留める。協力してくれ」
意を決したような声には、堅固な意志を感じた。
「まさかお前……」
何かを悟り、昴は眉を顰める。
「ああ、そのまさかだ」
「馬鹿者!! そんなものは策でも何でもない!! 賛同出来んぞ!!」
「なら他に策はあるのかい?」
「っ……」
朝陽の問いに、昴は言葉を詰まらせる。
事実、代替え出来る案はなかった。
否、〈スキル:煌武千剣〉で倒し切れなかった場合のプランもあるにはあるが、それには最低でも青藍か陸のどちらかがいなければ成立しない。
だからこそこんなにも頭を悩ませているのだ。
「はあ……」
昴は嘆息を就き、肩を竦める。
こうしている間にも、詩音と奏多の体力は消耗しているのだ。
考えている暇はない。
「わかった。協力しよう」
「ありがとう。そう言ってくれると思っていたよ」
そう言って、柔和な笑みを浮かべる朝陽。
「馬鹿者。笑っている場合か。死ぬかも知れないんだぞ!」
「わかってるさ。わかっているからこそ……ピンチだからこそ笑うじゃないか」
その言葉に、昴は既視感を覚える。
『ピンチの時こそ笑えよ皆。笑ってれば大抵のことはどうにかなる』
アレを言ったのは、そう確か大和だった。
あの時に何があったのかなんて覚えていないけれど、その言葉に励まされたのだけは覚えている。
「そうだな」
昴はフッ、と笑みを零した。
そうだ。
こんな時こそ笑わなければ、彼に怒られてしまう。
「さて、行こうか」
「ああ、そろそろ2人も限界だろう。全力でバックアップする」
「頼んだよ」
「ああ」
昴は悠然と歩む朝陽の背中を見送る。
朝陽がやろうとしているのは、朝陽が持つ〈スキル:三十秒天下〉を使った力技。
〈スキル:三十秒天下〉は全能力を3倍させるというスキルだ。
全能力とは、何も身体能力だけではない。
所持する全てのスキルの効果すらも3倍にする規格外の性能だ。
それで真正面から竜と対峙する。
昴の言うように、これは策でも何でもない。
純粋な殴り合いだ。
ただし、このスキルには大きな欠点がある。
それは、このスキルの持続時間が30秒しかなく、使用後3日間の昏睡状態に陥るという点だ。
もしも押し切れずに30秒が経過してしまった場合、朝陽は有無を言わさずに殺されるだろう。
だから出来ることなら使いたくはなかった。
今でも、使うべきではないと思っている。
しかし朝陽が言うように、こうなってしまっては、よもややむを得ない。
「死ぬなよ、朝陽……」
30秒で雌雄が決する。
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