Episode031:迷い



 時は、俺がライゼンを倒したその直後まで遡る。


【太陽の盾】には、戦闘の後片付けのみを専門とする特殊清掃部隊がある。


 通称【掃除屋】。

 その名の通り、倒したモンスターの死骸やら何ならを片付けるのが彼等の仕事だ。


 戦闘向きではないが、モンスター討伐に何かしらの貢献をしたいという人達によって結成された部隊である。

 昴と再会した時の赤頭狼も、後にこの部隊が片付けてくれたらしい。


 申し訳ないことをした。

 あの時は、予期せぬ昴との再会で頭がいっぱいになってしまっていたので許して欲しい。


 さて、そんなわけで彼等は今回大忙しである。

 何せ倒したモンスターの数が尋常ではないのだ。


 俺だけで優に2000は超えているだろう。

 他の部隊の討伐数を合わせたら万を超える。


 俺の倒したモンスターを掃除しにやって来た部隊が悲鳴をあげながら掃除に取り組んでいた。

 しかしそれは彼等にとっては喜びの悲鳴。


 何故なら彼等は、処理したモンスターが多ければ別途手当てが貰えるらしいのだ。

 今回はかなりの手当てが期待できるだろう。

 臨時収入だ。


 しかしそんな彼等にも任せられない亡骸が1つ。

 ライゼンのおっさんの遺体だ。


 これだけは俺が処理すべきだと思った。

 ライゼンのおっさんは、紛れもなく、疑うべくもなく、間違いなく敵だ。


 してはいけないことをした。

 それは許されることじゃないし、俺自身も許すつもりはない。

 昴達の身内に手を出した、ということは俺の身内に手を出したに等しいのだ。


 けれど、俺はこのおっさんが嫌いじゃない。

 潔く、義理堅い豪傑。

 それはどこかアルさんに通ずるものを感じて、何となく嫌いになれなかった。


 まあ、あの人はもっと格好良いけどな。

 見た目も中身も。


 話が逸れたが、そんなおっさんだからこそ、せめて俺の手で以て鎮魂しようと思ったのだ。

 使うのは、ハイロさんの時と同じ〈最上級混合属性魔法:女神の迎え火〉。


 白炎がおっさんの亡骸を包む。

 後は灰になるのを待つだけだ。

 折角なので、大剣と鎧は戦利品として頂戴しておくことにした。


 おっさんを火葬している間。

 俺の中にふと1つの疑問が生まれた。


 森に向かった足跡は2つあったと聞いている。

 大きいものと、小さなもの。

 大きい方の足跡はライゼンのおっさんだろう。

 となれば、もう1人はどこへ行ったのか。


 近くに潜んでいるのかとも思ったが、おっさんを倒しても出てこないあたり、近くにはいない可能性が高い。


 そして、他の部隊の所に現れたという話も聞いていない。

 そこへライゼンのおっさんが言っていた「足止め」というワードを照らすと、導き出される答えはただ1つ。


 もう1人は昴達の近くにいる。

 狙いは分からないしあくまで推測でしかないが、可能性は高いと考えていいだろう。

 どういうわけか、そいつは俺を近付けたくないらしい。


 もしも、もう1人の犯人の狙いが昴達自身だとしたら……。

 竜と戦い疲弊した所を狙われたら……。


 ──……皆は凌げるだろうか。


 嫌な予感がした。

 皆の身に危険が迫っているかも知れない。

 すぐに行かなければ。



「──っ」



 皆の元へ向かおうとして、しかし足を止める。


 何かあれば、はなから助けに行くつもりだった。

 けれど、助けに行くという判断は果たして正しいのだろうか。


 俺が皆を助けに行くということは、皆の力を疑うということだ。

 信じて待つという約束を破ることになる。

 それでも俺は助けに行くべきだろうか。



「おい、あんちゃん」



 声を掛けてきたのは掃除屋おっちゃんだった。



「はい?」

「何か悩み事か?」



 驚いた。

 このおっちゃんエスパーか?



「……どうして分かったんです?」

「そりゃあおめえ、顔に書いてあるよ。ワッハッハ」



 快活に笑うおっちゃんに、俺は苦笑いを浮かべた。



「そんな顔してました?」

「そりゃもうワザとかってくらいにな」

「なんか……すみません……」



 どうしよう。

 無意識だった。

 めっちゃ恥ずかしい。



「何も謝るこたあねえさ。若え内は悩んでなんぼなんだからよ」



 でもな、と継いで。



「悩んで出した答えが正解とは限らねえ。……いや、そもそも悩んだ時点でどうしたって後悔は生まれるもんだ。正解なんてないかも知れねえ。だからよ、たまには直感で動いてみるってのも大事だぜ?」



 おっちゃんは俺が何に悩んでいるのかなんて知らない。

 それでも、おっちゃんの言葉は俺の心に深く刺さった。


 少し考え過ぎていたのかも知れない。


 そうだ。

 どんなことになったとしても、皆が救えればそれで良いじゃないか。

 後のことは後から考えればいい。



「どうやら、腹は決まったみてえだな」

「はい。行ってきます」

「おう!! なんだかよく分かんねえけど頑張れよ!! ボーイズビーアンビシャスだぜ!! あんちゃん!!」

「はい!! ありがとうございました!!」



 俺はそう言って駆け出した。

 ありがとう、おっちゃん!



 昴達の居場所は分かっている。

 昴に渡したあの御守り。

 あれには、居場所を特定出来る魔法が仕込んである。


 要は発信機のような魔道具だ。

 万が一の時、居場所がすぐに分かるように渡しておいて正解だった。



「ここからだと約150キロか……」



 全力で走って1時間弱ってとこだろう。

 俺はスキルを駆使して、荒廃した世界を駆け抜けた。


 もうじき日が暮れる。

 その前に辿り着きたい。


 そして辿り着いた先で──。



「──大……和……?」

「よっ、昴。無事か?」



 俺は後方に大きく吹き飛ばされる昴と再会したのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る