Episode009:街の長
人は誰でも、何かしらの才能を少なからず秘めているものだ。
スキルとはイコール才能。
つまり、遍く全ての人々が何かしらのスキルを持っている。
先天的であったり、あるいは後天的に目覚めたりと人によって様々だが、何も持たない人間はいない。
個性と言い換えても良いだろう。
それが異世界でのスキルの常識だった。
それは、地球でも同じらしい。
スキルを持たない人間は存在しない。
様々な人間が多種多様なスキルを持っている。
料理を作るスキル。
武器を作るスキル。
金属を操るスキル。
食べ物を生産するスキル。
土壌を整えるスキル。
剣術を扱うスキル。
肉体を強化するスキル。
計算をするスキル。
炎を操るスキル。
魔道具を生産するスキル。
……エトセトラ。
そして、この街の住民全員のスキルを把握し、管理──仕事の斡旋などをするのも役所の仕事だと昴は言った。
無論、政も役場の仕事である。
「私達の職場はそこさ」
「確かにお前には向いてそうだが……。私達ってことはあいつ等もなんだろ? あいつ等で大丈夫かよ」
小学生で時が止まっているというのもあるが、あいつ等がお堅いお役所仕事なんて勤まるとは思えない。
「気持ちは分かるが、まあ、あいつ等ももう大人だからな」
「そういうもんかね……」
一部を除いて、わんぱく小僧とおてんば娘しかいなかった気がするけどな……。
いやはや、時の流れは恐ろしい。
そして当の本人達はというと、後からやって来るとのことだった。
なんでも、ああして街を歩くのも仕事なんだとか。
俺にはよく分からん仕事だ。
「ついたぞ」
そんなことを話している内に、俺達はいつの間にか役場の前まで来ていたらしい。
「ここが……」
それは近代的な5階建ての建物だった。
全面ガラス張りになっていて、中で働いている人の姿が良く見える。
これは凄いな……。
今の世界でよくここまでの物を作れたものだ。
「おい、いつまで呆けているんだ。置いていくぞ」
「ん?」
あいつ、いつの間にあんな所まで。
「悪い、今行く」
気付けば隣からいなくなっていた昴に急かされて、小走りで役場の中へと足を踏み入れる。
しっかり自動ドアだ。
多分、今の世界じゃ電気は普及していないだろうから魔力を原動力とした魔道具だろう。
屋内が明るいのもその類のものと思われる。
しかも、驚くことにエレベーターまであった。
これもやはり魔道具なのだろうけれど、自動ドアなんかとは比べ物にならないくらい製作困難な代物だ。
エレベーターという概念を知っているからこそ出来た物だろう。
異世界にも腕の良い職人はいたが、エレベーターや自動ドアなんてものは見たことがない。
知っているか否かという差は大きいのだろう。
しかし、それを加味してもこれを作った魔道具士は相当腕が良い。
かなりの練度だ。
「今ってどこ向かってるんだ?」
エレベーターに乗り込み、5階のボタンを押した昴に訊ねる。
「まずは総長──この街の長のところだ。滞在する以上、挨拶はしておかないとな」
あー、やっぱりそうか。
5階を押した時点で嫌な予感がしたんだよ。
普通、最上階にあるのはそういう部屋だもんな。
「言っとくが、俺は礼儀作法なんてまったく知らないからな」
「大丈夫だ。そんなの微塵も気にしないから」
「……本当かよ」
無礼者があああッッッ!! とかってキレだしても俺は知らんからな。
しかし、実は昴こそがこの街の長なんじゃないかと思っていたのだが、態々会わせるということは違うのだろう。
街の人の態度や、役場の職員達の態度からして間違いないと思っていたんだけどな……。
余計に昴が何者なのか分からなくなった。
やがてエレベーターが止まり重厚な扉が開くと、その先にあったのは1本の廊下と扉だけであった。
扉の上には、【総長室】と表記された金属プレートが付いていた。
なるほど。
外から見た時、5階はやけに小さいと思ったが、どうやら総長の部屋しかないようだ。
まずい。
街のトップに会うと考えたら急に緊張してきた。
恐らく、この街には数万人の人が住んでいる。
荒廃した今の日本においては、そこそこ大きな街に分類されるはずだ。
そこのトップともなれば、きっととんでもない傑物に違いない。
昴は大丈夫だと言うが、なるべく失礼のないように慎重に行動しなければ。
昴の顔に泥を塗るのだけはごめんだ。
「何してるんだ? 行くぞ?」
「あ、ああ……」
意を決してエレベーターを降りる。
次第に速まる鼓動。
廊下がやたらと長く感じた。
そして。
コンコン
昴が扉を叩くと、中からは女性の声が帰ってきた。
「──はい」
総長は女性……なのか?
それに、声には若々しさを感じる。
若いというか、むしろ幼いような?
「失礼します」
昴がそう言って扉を開けた先にいたのは、小柄な若い少女だった。
書類を棚に片付けている最中であったのか、重ねられた書類を片手に、赤みがかった茶色のツインテールを揺らして肩越しに振り返る。
いや、マジで若いな!?
どう見ても高校生くらいにしか見えないぞ!?
しかし、このなりでこの街を治めるだけの力を秘めているのかと思うと逆に怖い。
「あなたは……」
──誰? とでも言いたげに首を傾げる彼女に、俺は勢いよく腰を折り。
「今日からこの街でお世話になることになりました、竜胆大和です!! 不束者ですが、よろしくお願いします!! ──総長!!」
「ふぇっ!? あっ、あの、わたし総長じゃありませんけど……」
──え。
「えええええっ!?」
じゃあ、誰なんだよ!?
というか、総長はどこに!?
混乱する俺を他所に、昴は腹を抱えてケタケタと笑っていた。
何笑ってやがるんだよ、お前。
……待てよ。
そもそもおかしい。
普通、こういう時って昴が俺を紹介するものではないだろうか。
なのにこいつはドアの後ろに隠れていやがった。
……ハッ! まさか!
「まさか……お前……」
そこへ──。
「あっ、なんだ。いるじゃないですか」
ひょこっと現れた少女がドアの後ろを覗き込み。
「お疲れ様です。──総長」
「ああ、胡桃、お疲れ様」
それと、と継いで。
「歓迎するよ、竜胆大和君。ようこそ、【太陽の街】へ」
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