第一章 モンスターが溢れる地球
Episode001:いてはならないモノ
頭部のみが赤く、それ以外はくすんだ金色の体毛をした狼。
【
それが奴等の名だった。
魔物じゃない。
ただの動物だ。
しかしその危険性は地球の動物とは比べるべくもない。
地球の動物と比べれば、魔物と言っても差し支えない程の危険性を秘めている。
そんな奴等に、気付けば俺は囲まれていた。
10頭程の群れだ。
退路は既に絶たれている。
普段ならそんなヘマはしない。
囲まれる前に──いや、そもそも狙われた時点で気が付いている。
動揺していたが故に招かれた事態だ。
一人前になったつもりだったが、どうやら俺もまだまだ未熟者らしい。
しかしそんなことは今はどうだってよかった。
赤頭狼程度、いくらいた所で敵じゃない。
それより問題なのは、何故奴等が地球にいるのかということだ。
6年の間にいったい何が起きたのか。
何も解決しないままに謎がまた1つ増えた。
「──グラァアアアッッッ!!」
思考に耽っている内に、群れの1頭が襲いかかって来た。
悠長に考え事をしている暇はなさそうだ。
飛びついてきた狼の顎を蹴り上げ、顎を粉砕。
続けざまに指環から短剣を取り出して、襲い来る狼を斬り裂いていった。
そうして5頭ほど討伐すると、残された狼達はじりじりと後退し始める。
奴等は、群れが半数以下になると逃げていく習性がある。
勝てないことを悟るのだろう。
奴等はあれでそこそこ利口だ。
俺は今まで、逃げるものを追い掛けてまで殺すということはしなかった。
勿論獲物は別だが、食用に向かない奴らをそこまでして殺す理由がない。
あくまで降りかかる火の粉を払っていただけなのだ。
しかし──。
「〈初級火属性魔法:火矢〉」
背を向けて逃げ出した狼へ向けて放たれた5つの赤き矢は全て命中。
当たった場所から火が燃え移り、狼達は瞬く間にして火だるまになった。
「悪いな、この世界にとってお前達はあまりに脅威なんだ」
奴等とて、何も好き好んで人を襲うわけじゃない。
生きる為に人を襲っているのだ。
人が生きる為に狩りをするのと同じ。
たまたま見付けた獲物が人間だった。
それだけの話。
そこに悪意はないのだ。
だから、無闇矢鱈に殺さない。
逃げるなら追わない。
それが俺のポリシーだった。
しかし、俺が逃がしたせいで違う誰かが傷を負ったら、最悪死んでしまったら、目も当てられない。
そんなことが起きるくらいならポリシーなんて捨てる。
人命よりも大事なポリシーなんて俺は持ち合わせていない。
もっともこの世界に生き残りがいるのなら、だけれど。
既に死んでいる5頭も〈初級火属性魔法:火球〉で同じように燃やす。
死骸は疫病の元。
それに、死んだまま放っておくのも気が引ける。
「しかし、なんでこいつらがここにいるんだ……?」
あるいはこの街をこんな風にしたのはこいつらなのだろうか。
赤頭狼にここまでする力はないが、他の動物、ともすれば魔物すらもいるのだとすれば、この状況にも説明がつく。
大型の魔物であれば、街を壊すくらい容易い。
いや、魔物でなくとも街を破壊出来るだけの力を持った生物には心当たりがある。
信じたくはないが、現に俺自身が世界間を行き来し、なおかつ事実として異世界の生物と邂逅したのだから可能性は高いだろう。
いやむしろ、そうだと思って行動すべきだ。
ならば地球の住民はどうなったのだろうか。
全滅?
それこそありえない。
確かに一度は頭を過ぎった。
しかし、魔法やスキルはないにせよ、科学の力で生まれた兵器があるのだからそう簡単に淘汰されはしないだろう。
魔物は強いが、この世界の兵器であれば抵抗出来るはずだ。
生き残りは必ずどこかにいる。
「……探そう」
今この世界に起きている現状をより正確に把握するには、誰かに聞くより他ない。
俺1人で考えても所詮は推測にしかならないのだ。
それにどうしたって思考はマイナスに偏る。
変に考え込んで落ち込むのは馬鹿だ。
生き残りの捜索。
それが、地球に帰ってきた俺が初めてやるべきことになった。
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