Episode011:ユニオン



 数分後。

 目を覚ました馬鹿2人に俺の正体を教えると、2人はこれでもかと驚嘆した。



「え、大和!? マジ!? 俺完全に死んだと思ってたぜ!!」

「僕もだよ!! よく生きてたね!?」



 こいつらにはデリカシーという言葉は存在しないのだろうか。


 そりゃあ8年も行方不明なら死んでいると思っても何らおかしくはないけれど、普通それを本人には言わないだろうに。

 心の内に留めておくだろうに。


 そして、そう思ったのは俺だけじゃないらしい。



「「フゲッ」」



 2人は詩音と青藍にビンタされていた。

 まあ、こいつらの歯に衣着せない物言いは、ある種裏表がないという意味で。

 存外に嫌いじゃない。

 程度はあるけどな。


 そして俺は、昴に話したのと同じように俺の歩んだ道程を話した。

 皆の反応はかなり懐疑的。

 仕方のないことだ。

 こんな話おいそれと信じられるものじゃない。

 しかし、最終的には皆俺の話を信じてくれた。



「大和がそんなくだらない嘘つくわけなくね? つくならもうちょいマシな嘘つくだろ」



 という奏多の言葉で皆納得したようだ。

 ただ、奏多に諭されたのだけは腑に落ちない感じではあったけれど。



「これで皆も大和の事情は分かったな?」



 各々が首を縦に振り、昴はさてと話を切り替える。



「一応今の私達の立場を説明しておくと、私が総長で、朝陽はユニオン【太陽の盾】のユニオン長兼第1部隊隊長。そして皆は第1部隊所属のメンバー兼幹部だ。それぞれ役職もあるんだが、まあ、それは追々」



 とりあえず今は、私が総長で朝陽がユニオン長だというのが分かっていればいいと昴は言った。



「それは分かったんだが、そのユニオンってなんなんだ?」

「ああそうか。私としたことがすっかり失念していたよ。ユニオンというのは──」



 ユニオンというのは、地域を仕切る団体のことらしい。

 大小いくつものユニオンがあり、大抵の人間はどこかしらのユニオンに所属しているようだ。

 まあ、無所属の人間も少なからずいるみたいだけれど。


【太陽の街】を含め、この周囲一帯を仕切っている【太陽の盾】は日本でも指折りのユニオンらしい。

 なんでも、日本ではまず知らない人はいないほどだとか。


 何故そこまで有名なのかと言うと、所帯が広いということもあるが、上位ランカーと呼ばれる国内ランキング上位100人の中に複数人のメンバーがランクインしているからだそうだ。

 俺の幼馴染みは、全員が100位以内に入っているという。


 下から順に言っていくと。


 昴72位。

 青藍48位。

 陸37位。

 詩音19位。

 奏多12位。

 そして、朝陽は堂々の3位。


 ランキングを見てみると、確かに皆の名前がそこにはあった。

 そしてなるほどと思う。

 名前の前に所属しているユニオンの名前があったのだ。


 上位にこれだけ名を連ねていれば、そりゃあ有名にもなるわけだ。

 しかも、朝陽に至ってはトップ3に入ってるわけだし。

 ユニオンの長を務めているだけはある。


 ちなみに俺は200万位くらい。

【赤頭狼】を狩った分のポイントがいくらか入っているのでドンケツではないが、皆との差は大きい。

 とはいえ、上位ランカーになったからといって特別何かがあるわけでもないらしいが。



「それに、ランキングはイコール強さじゃないんだ。ランキングは低くても俺より強い人もいる。ランキングはあくまで指標にしかならない」



 とは、朝陽の言葉である。



「そうだな。私じゃ大和にはどう足掻いても勝てないのが良い例だよ」



 そう言って昴はこともなげな顔でコーヒーを啜る。



「いやいや、それは流石にないでしょ」



 冗談だと思ったらしい陸がおどけてみせるが、昴は冗談じゃないぞと首を横に振る。



「何せ、300頭はいたであろう【赤頭狼】の群れを秒殺したからな、こいつは。私でも殲滅自体は可能だけれど、秒殺は不可能だよ。あの火力は異常だ」

「異常ってお前な……」



 俺がイカれてるみたいな言い方するなよ。

 ふと他のメンバーを見ると、全員の顔が引き攣っていた。



「……秒殺は流石に言い過ぎよね?」



 例に漏れず顔を引き摺らせたまま笑みを向ける詩音。

 器用だな。



「ああ、流石に俺だって1分はかかったと思うぞ?」

「1分てあんたね……はあ……」



 何故か溜め息をつかれた。

 それも、全員から。



「異世界人ってのは、皆お前みたいに非常識なのか?」

「非常識ってなんだよ」



 というか、奏多にだけは言われたくない。



「どうやら、大和君には地球の常識から学んでもらう必要があるようね」

「いや、流石に常識くらい弁えてるぞ」



 おい、なんで全員賛同してんだよ。



「けど、ここに来て大和と合流出来たのは俺達にとって僥倖だ」



 朝陽の言葉で、これまでどこか緩んでいた場の空気が引き締まった。



「ということは……?」

「ああ──」



 昴の問いに、朝陽は鷹揚に頷き。



「──竜の結界が解けかけている」



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