Episode007:ランキング




「それより、どうして見付かってもいない相手の安否が分かるんだ?」

「ああ、それは〈スキル:メニュー〉のおかげだよ」

「〈スキル:メニュー〉?」



 聞いたこともないスキルだ。



「なんだ、知らないのか?」



 昴が少し驚いた様子で訊ねてきた。



「知らん。……もしかしたら、異世界には存在しないスキルなのかも知れないな」



 魔法同様、スキルについても、この6年の間にかなり勉強してきた。

 自慢じゃないが、〈ユニークスキル〉と呼ばれる特殊なもの以外は全て網羅している──つもりだ。

 その俺が知らないのだから、異世界には存在しないスキルである可能性は高い。



「異世界には存在しないスキル、か……。まあ、世界が違えばそういうこともあるだろうな。そもそも私の知るスキルとお前の知るスキルを同一のものとして見ていいのかすら分からない」

「確かにな」



 それはそれとして。



「んで、そのスキルがどう関係しているんだよ?」

「それは……そうだな、実際に使ってみた方が分かりやすいだろう」

「おいおい、使ってみた方が分かりやすいって言っても、俺はそのスキル使えないぞ」



 スキルというのは言わば天稟だ。

 才能がなければ使うことが出来ない。


 逆に才能があれば、自然とどう扱うかが手に取るように分かる。

 脳裏に浮かんでくる。

 それがスキルというものだ。


 後天的に使えるようになるスキルの場合でも同じ。

 ある日突然使えるようになるのだ。


 しかし俺にはそのスキルの使い方が分からなかった。

 使い方が分からないということは、つまり現時点では使えないということに他ならない。



「大丈夫だ。騙されたと思って一度言われた通りにやってみろ」

「ほんとかよ……」



 仕方なく、昴の指示に従って〈スキル:メニュー〉の行使を試みる。


 えっと、なになに……目の前にメニュー画面が出てくるのを想像しながら──。


 ……って、メニュー画面ってなんだよ。



「〈スキル:メニュー〉」



 半信半疑で呟くと、目の前に半透明のパネルが現れた。



「……なんだこれ」

「出てきたか?」

「うん、まあ出てきたけど……。というかこれ、お前には見えてないのか?」

「ああ、自分のメニューは他人には見えないからな」

「ふーん。で、これで何が出来るんだよ?」

「それは順を追って説明する。まずは──」



 昴の説明をまとめるとこうだ。

 このスキルには、4つの機能がある。


 健康状態の確認。

 メールの送受信。

 ポイントの交換。

 ランキングの確認。


 まず健康状態の確認はそのままの意味で、自身の健康状態を確認することが出来る。

 病に罹っていないか、怪我していないかなどなど。


 そしてメールの送受信。

 これもそのままの意味でメールの送受信が出来る。

 ただしこれが出来るのは、お互いのメニューのフレンド欄に名前がある人間のみ。

 フレンド欄は互いに了承することで追加される仕組みのようだ。


 ここまでは分かる。

 便利な機能だ。


 問題は残りの2つ。

 ポイントとランキング。

 言葉の意味は分かるが、しかしなんのポイントでなんのランキングなのか。


 この世界では、モンスターを倒すとポイントが加算される。

 要は討伐ポイントというわけだ。

 モンスターの強さ、戦いへの貢献度などで加算されるポイントが変動するらしい。


 そしてこのポイントは、ショップという項目から様々なアイテムや食糧と交換することが可能で、また他者と物のやり取りをする際にも使うことが出来る。


 つまりポイントとは、この世界での今の通貨なのだ。

 紙幣や硬貨には、なんの価値もない。


 更にこれまで稼いだ討伐ポイントの合算を多い順に並べたものがランキングだった。

 ランキングは世界ランキングと国内ランキングの2種類があり、〈スキル:メニュー〉ではこのランキングを見ることが出来る。


 自分のだけじゃなくランキングそのものを見ることが出来る為、他はどれくらい稼いでいるのかも分かるらしい。

 ランキングはあくまで自身が討伐して得たポイントのみが反映される為、取り引きなどで得たポイントは加算されないのだそうだ。


 他のものと比べると一番地味な機能に思える。

 だが昴は、このランキングのおかげで俺の両親が生きていると断言出来るのだと言った。



「いいか? このランキングには、生きている者しか記載されない。死んだ人間はいつの間にか名前が消されているんだ」

「つまり、そこに父さんと母さんの名前があるということか」

「そうだ。そこに名前がある以上、確実に生きている」

「なるほど……」



 確かにそれなら納得だ。

 しかし、いくら人口が減ったとはいえまだ結構な生き残りがいる中から父さんと母さんを探すのはかなり骨の折れる作業だっただろう。


 苗字が珍しいおかげで同姓同名の人物と間違える可能性が低いとはいえ、見つけ出すのは容易ではなかったはずだ。

 しかし、昴はそれをおくびにも出さない。


 ヤバイ。

 6年ぶりに会った親友が外見も中身もイケメン過ぎて泣きそう。



 それにしてもこの〈スキル:メニュー〉というのは本当に不思議なスキルだ。

 そもそも使い方が分からないのに使えるというのがまずおかしい。

 スキルの概念を根本から覆している。


 機能にしたってそうだ。

 いったいどうやって自身の健康状態を把握している?

 ポイントは誰が割り振っている?

 ショップのアイテムはどこから現れている?


 おかしな所を上げればキリがない。

 例外中の例外。

 まるで誰かがこの世界の合わせて作ったようなスキルだ。



 まさか、な……。

 流石に思考が飛躍し過ぎた。

 もしもそんなことが出来る奴がいるとしたら、そいつは最早神だ。

 人間じゃない。


 謎は多いが、考えるのはやめにした。

 便利なのは間違いないのだし、使えるものは使わせてもらう。


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