Episode005:災厄
「しかし6年か……。こっちでは実際8年が経過しているのに……。この時差は気になるな……」
顎に手を添えて、思案顔で昴が呟く。
「俺も気にはなるが、まあ、異世界と地球とじゃ何かが違うんだろ」
地球にだって時差は存在するのだ。
異世界と地球で2年の時差が起きたとしても、それ程不思議なことじゃない。
「いや、それはそうなんだが……。丁度2年というのが引っかかってな」
「……? なんでだ?」
「災厄──この地にモンスターが現れたのが、2年前だからだ。偶然にしては出来すぎていると思わないか……?」
それは、俺が今最も気になっている話題だった。
「詳しく聞かせてくれ。いったい2年前に何が起きたんだ?」
♦
──遡ること2年前。
高校の卒業を間近に控えていた昴は、退屈な日々を過ごしていた。
高校は自由登校の期間であった。
卒業式まで行くことはなく、かと言って遊びに行こうにも金がない。
子供の頃と違って、遊ぶのには金がかかる。
(せめて、大和がいれば何か違っただろうに……)
小学校の春休み。
一緒に遊んだその帰りで行方不明になってしまった無二の親友。
学校は別だったが家は近所で、毎日のように遊んでいた。
同性の同級生よりも、ずっと仲が良かった。
彼がいれば、少なくともこんなに退屈な思いはせずに済んだだろう。
しかし、今はいない。
あれから6年も経つが、未だ捜査に進展はないらしい。
今彼は、どこで何をしているのだろう。
大抵の者が既に死んでいると推断する中で、昴は大和が生きていると信じて疑わなかった。
いつかひょっこり帰って来る。
そう、信じていた。
そんなある日。
報道番組で、一風変わったニュースをやっていた。
近頃、新種の生物の目撃情報が相次いでいるというニュースだ。
特番ならまだしも、報道番組でこういった内容が取り沙汰されるのは珍しい。
それだけ話題になっているということだろう。
何せ、騒いでいるのは日本だけではないのだ。
アメリカ、ロシア、中国、ヨーロッパ諸国……。
新種の生物の目撃情報は世界中で相次いでいる。
なんでも、既に捕獲された生物もいるようだ。
報道番組では、捕獲された生物の実際の映像が流れていた。
亀の甲羅を背中に付けた鰐。
体長2メートルはあろう頭部のみが赤い、くすんだ金色の狼。
羽の生えた豚。
角のある兎。
全身が黒く、やたらと鋭利で長い尻尾をもつ栗鼠。
──などなど。
物語の中から出てきてしまったかのような生物達が、代わる代わるテレビに映し出されていた。
まるでCGでも見せられている気分だ。
次々に現れる新種の生き物に、世界が湧いた。
昴も例外ではない。
強く興味を惹かれた。
何かが変わる。
そんな予感がした。
──後にして思えば、それは予感ではなく予兆だったのだろう。
その日から、連日新種の生物の報道が続いた。
次々と現れる新種の生物。
いったいどこから現れているのか。
あるいは既存の生物が進化しているのか。
謎は多い。
多くの研究者が様々な見解を述べているが、どれもいまいち判然としない。
なんなら、ネットの書き込みで見掛けた「異世界から流れ込んで来ている説」が一番しっくりきたくらいだ。
人は分からないことに恐怖する生き物だ。
初めの内は浮かれていた人々も、次第に恐怖の色を滲ませるようになった。
そんな中、新たな目撃情報として竜の映像が公開された。
撮影された場所はアメリカ。
重機よりも遥かに巨大な生物が、我が物顔で荒野を闊歩していた。
竜というよりも巨大な蜥蜴のようであったが、迫力は確かに竜のそれであった。
流石に眉唾だろう。
世間同様、昴も同じことを思った。
ただし民衆の恐怖を煽るには充分で。
歓迎ムードはどこへやら、民衆は不安を募らせた。
──そして、危惧していたことが起きる。
人が襲われた。
それも、1人や2人の話ではない。
世界中で大勢の人間が襲われたのだ。
新種の生物が突然牙を剥いた。
もっと早くに危機を察知出来ていれば状況は違かったのかも知れない。
だが皆、気付くのが遅かった。
あまりに遅過ぎた。
眉唾だと思われていた竜や、戸建ての一軒家くらいの大きさの生物まで現れ、人々は容易く蹂躙された。
当然、軍隊やあるいは自衛隊が応戦するが成果は芳しくない。
たったの1日足らずで街は瓦解し、多くの人間が命を落とす最悪の結果となった。
この日で、世界の人口は3分の1以下まで減少したという。
それが【災厄の日】
誰も忘れることのない、地獄の1日だ。
先の見えない現実に誰もが絶望した。
何せ、どの国の上層部も全くとして機能していないのだ。
どうすればいいのか全く分からない。
いっそ死んでしまった方が楽だったと思う者も少なくはなかった。
昴は家族の安否すら分からず、1人避難所で途方に暮れていた。
家族はおろか、知り合いの1人ですら避難所にはいなかったのだ。
運良く辿り着いた避難所は幸いまだ無事だったが、しかしここもいつまで持つか分からない。
少しでも気を緩めれば、不安でどうにかなってしまいそうだった。
変化が起きたのは翌日のこと。
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