Episode003:会議



 その日、街の幹部達が一堂に会した。

 集められたのは第1部隊全員と20ある戦闘部隊の隊長と副隊長全て。

 それから5つある斥候部隊ーー本当は6つあったのだが、ゲンサイとライゼンによって殺されてしまった──の隊長と副隊長全て。

 あと、謎に俺。

 俺は幹部じゃなければユニオンに加入もしていない。

 ……家はあるけどな。

 ともかく、俺はここにいていい人間じゃない。

 なのに、呼ばれてここにいる。

 それも朝陽の隣だ。

 その反対側には昴。

 これじゃあ俺はまるで大幹部じゃないか。

 気まずいことこの上ない。

 確かに俺も気になる内容ではあるが、せめて隅っこにしてくれよ。

 もっとも、今更どうにか出来るような雰囲気でもないが。



「皆、集まってくれて感謝する」



 口火を切ったのは昴だった。



「聞いていると思うが、【悪魔達の宴】が我々に対し宣戦布告を行った。既に【空の街】は襲撃を受けている。支部長を筆頭に頑張ってくれてはいるが、正直いつまで持つか分からない。すぐにでも全軍を以て駆け付けるべきだろう。だが……」



 気掛かりなのはゲンサイの言っていた"次のステージ"。

 どうなるか分からない以上、戦力を温存しておく必要がある。

 加えて先日の戦いでの傷が癒えていないものも多く、出せる戦力はそう多くなかった。



「その為今回は特別部隊を編成し、ことに当たることにした。これより編成リストを配る」



 壁際に控えていた役所の職員が俺を含めた1人1人に資料を配っていく。

 いつの間にこんなものを作ったのか。

 全員に配られたのを確認して、昴は再度口を開いた。



「行き渡ったな。ここに記載されている者が今回特別部隊に選出されたメンバーだ。良く確認しておいてくれ」



 皆、真剣な表情で資料に目を通していた。

 俺もつられて資料を眺めると、大半が知らない名前である中で、詩音、奏多、青藍の名前を見付けた。

 そこに各部隊から数名〜数十名が選出された計638名が今回のメンバーだ。

 隊長格も数名混じっている。

 妥当なメンバーだろう。

 これ以上、ここの戦力を削いでしまうわけにはいかない。


 ──だが、はっきり言ってしまうと些か戦力に不安を感じる。

 何せ、敵にはランキングトップ10が4人もいるのだから。

 まだ傷が癒えていない陸は分かる。

 総長としての職務がある昴も分かる。

 だが、朝陽に関しては出撃するべきじゃないかと思った。

 ユニオン長としての立場があるのは分かるが、今回は温存して勝てる相手だとも思えない。

 というか、士気に関わるだろう。

 いや、1人で潰しに行こうとしてた俺が言うのもなんだけど。


 同じことを思った人は俺だけじゃないらしく、幾人かの人間から同じような意見が上がった。

 しかし、昴は首を横に振る。



「皆の意見ももっともだが、今はどんな事態が起こるか分からない状況だ。朝陽を欠くわけにはいかない」



 代わりに、と紡ぎ。



「竜胆大和を部隊に加える」



 ……ん? ……俺?



 会議室がどよめく。

 そりゃあそうだ。

 彼等からすれば俺は余所者。

 そもそもここにいること事態がおかしい。

 部隊に加えるとか言われても、うん、だから? という話だろう。

 行くのは全然良いんだが、というか言われなくても勝手に行くが。

 そんな声を大きくして言うようなことではないと思う。

 しかし。



「それならいけるかも知れない」



 みたいな空気になっている。


 あれ? おかしいな? 思っていたリアクションと違うぞ。

 だが、誰もが歓迎してくれるというわけじゃなかった。



「──ちょっと待ってください」



 手を挙げたのはたわやかな黒髪の女性。

 歳は昴達よりも少し上くらいだろうか。

 美人だが、少しキツそうな印象を受ける。



「どうした? 桜黒」



 桜黒……確かリストに名前が載ってたな。

 あ、この人だ。



【第2部隊】

 隊長 神代桜黒



 へえ……。

 隊長か。

 それなら、かなりの実力者だろう。



「その方はユニオンのメンバーではないはずです。メンバーでない者を部隊に加えるのは如何なものかと思いますが」



 もっともな意見だ。

 彼女以外の人間から意見が出なかったのは、俺が余所者であることを知らなかったが為らしい。

 他の人達は「え? そうなの?」という顔をしている。

 なんで幹部連中まで俺がユニオンに加入したと思ってるんだよ。

 俺は余所者だってちゃんと言っとけよ。

 大事だぞ、ホウレンソウ。



「つまり君は、大和が戦争に参加するのは反対だと」

「はい。これは、私達が売られた喧嘩です」



 つまり部外者である俺に出る幕はないと。



「だそうだが?」



 ──どうする? 大和。



 昴が視線を向ける。

 そこで俺に振るのかよ。


 俺がユニオンに加入しなかった理由は、縛られたくなかったからだ。

 両親を探すにあたって、ユニオンへの加入は枷になると思っていた。

 両親が見付からない内は入ったとしても迷惑をかけることになるだろう、と。

 ──が、両親が見付かった今、俺がユニオンへの加入を拒む理由はない。

 むしろ、俺には戦争に参加する理由がある。



「……神代さん」

「なんでしょう?」

「俺がユニオンに加入すれば、問題はありませんか?」

「それは……まあ、そうですね……」



 言質は取った。



「朝陽、昴、俺をユニオンに入れてくれ」

「ああ」

「勿論だ」

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