Episode008:到着



 どうも、不本意ながら、非常に不本意ながら先発隊の指揮官に任命された大和です。

 大事なことなので2回言いました。

 なんで俺なんだよ。

 というか、なんで出発前に指揮官決めておかなかったんだよ。

 意味が分からない。

 もっと相応しい人間がいるだろう。

 青藍とか青藍とか青藍とか。

 え? 詩音と奏多? 無理に決まってるだろ、馬鹿か。


 しかし必死の抗議も虚しく、結局なし崩し的に指揮官となってしまった。

 新参者の俺に指揮官をやらせるとか頭がおかしいと思うが、今更決定が覆ることもないだろう。

 何せ満場一致だ。

 俺以外。


 仕方ない。

 やりますよ。

 やればいいんだろ。


 さて、俺達先発隊の一行は【空の街】の防壁が見える所まで来ていた。

 到着までは後10分程度といったところだろうか。

 これでも一応は指揮官なので先頭になっておいた方が良いだろうと、列を外れて爆走。

 ごぼう抜きだ。



「飛ばすわよおおおッッッ!!」



 揺れる。

 これまでの比じゃないくらい。

 青藍はハンドルを握ると性格が変わるようだ。

 普段の温厚な青藍は何処へ……。



「あでででで」



 痔になりそうだ。


 時刻は18時を回ったところ。

 周囲は既に暗くなり始めている。

 連中は日中しか攻めて来ないらしいので、恐らく戦闘は行われていない。

 夜はモンスターの動きが活発になる為に避けているのだろう。

 頃合としてはちょうどいい。


 防壁に着くと、複数名の門番がやって来てコンコンと窓を叩いた。

 対応するのは運転手の青藍だ。



「お疲れ様です。【太陽の街】の皆さんですね」

「ええ」

「お待ちしておりました。中へどうぞ」



 車ごと門を潜ると、大勢の住民達が俺達を迎えてくれた。

 歓声が凄い。



「凄いな……」

「そうね」



 隣の詩音が同意する。

 話しによると、詩音達が街を訪れた際にも同じように歓待してくれたらしい。

 しかしながら、当時と今とでは状況が違う。

 戦時中なのだ。

 それでも明るくいられるのは、つまりそれだけ街に影響が及んでいないということ。

 前線で戦うまだ見ぬ仲間達が懸命に戦ってくれているが故だろう。

 劣勢と聞いているが、思ったよりも状態は悪くなさそうだ。



 ──と、この時までは思っていた。




 しかし俺達は、すぐに厳しい現実を思い知ることになる。



「これは……」



 役場の中は怪我人で溢れかえっていた。

 目を失った者。

 腕を失った者。

 足を失った者。

 あるいは、その全てを失った者。

 むせ返るような血と薬品の匂いが充満していた。

 かなり衝撃的な光景だ。

 あまりに痛ましい。

 モンスター暴動直後の【太陽の街】も酷い有様だったがこれは……。



「ひでえな……」



 奏多は顔を眉間を寄せて歯噛みする。



「ああ……」



 頭に血が上るのを感じた。

 何故彼等がこんな目に合わなければならないのだろう。

 彼等はただ、懸命に生きていただけなのに。

 理不尽だーーが、戦争とは往々にして理不尽なものだ。

 いつだって度し難い。

 こんなものを望む連中が理解出来なかった。


 しかし、この街にも病院はあるはずだ。

 それなのに何故、役場であるこの場所にこんなにも怪我人が集められているのだろうか。

 思考に耽っていると。



「悪い、待たせたな」



 やって来たのは、20代後半程の男。

 天然パーマなのか髪はボサボサで、顔の上半分が前髪で隠れている。

 痩せ型ではあるものの筋肉質だ。

 腰には二振りの刀を携えていて、口には煙草を咥えている。

 強いな、とひと目で分かった。

 多分、朝陽と同じくらい。


 それと、彼の背後にもう1人。

 メイド服姿の少女。

 歳は俺と同じくらいだろう。

 なんだか眠たそうな目をしている。



「じろー、ここ禁煙」



 少女はそう言うと、男が咥えていた煙草を奪って踏み潰した。



「あっ、お前今煙草高えんだぞ!?」

「知らない。ここで吸ってるじろーが悪い」

「いや、そうだけど!! なにも床で消すことねーだろ!!」

「知らない。ここで吸ってるじろーが悪い」

「……悪かったよ!!」



 俺達はいったい何を見せられているのだろうか。



「アンタ達、仲良いのは分かったからもうその辺にしなさい」



 はあ、と溜め息を吐いた詩音が2人の間に割って入った。



「おっ、詩音。お前相変わらずちんまいなあ……。ちゃんと飯食ってるのか?」

「うるっさいわね! 頭撫でないでよ! ぶっ飛ばすわよ!?」



 頭を撫でられて憤る詩音。

 しかし男は全く意に介した様子もなく「そうかそうか、頑張れよ」と言って頭を撫で続ける。


 詩音、憐れな子。

 あいつ、いつもこんな扱いなのか……。

 とは言え、これでも詩音はユニオンの最高幹部だ。

 その詩音にこの態度ということは、ひょっとして──。



「お前が竜胆大和だな」



 男は視線を俺に向けた。



「はい」

「そうか。遠い所よく来てくれた。俺は支部長の天沢二郎だ。よろしくな」



 そう言って、男──天沢二郎はにかんだ。


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