Episode009:戦況



 支部長とは街の全権を握るユニオンの最高幹部だ。

 立場的には詩音達と同列らしい。

 ちなみに、総長とユニオン長だと一応ユニオン長の方が立場的には上のようだ。

 天沢さんの脇に控えているのはメイド服の少女は鏡花子さん。

 彼女は天沢さんの腹心だ。


 俺は現状を説明したいという天沢さんに連れられて、支部長室へとやって来た。

 他の皆は青藍と共に治療に当たっている。

 スキルがなくとも手伝うことは出来るのだ。


 説明はじきに到着予定の【大地の街】、【星の街】の援軍を待つということで、俺達は暫く雑談を交わした。

 お互いを知る良い機会だ。


 話している内に知ったのだが、どうやら天沢さんはランキング5位の実力者らしい。

【太陽の盾】では朝陽に次ぐ猛者なのだとか。

 俺としてはやっぱりなというのが正直な感想だった。

 むしろ意外だったのは鏡さんの方。

 彼女、なんとランキング14位の高ランカーだったのだ。

 全く強そうには見えないが、天沢さんの腹心だからきっと強いのだろうと思っていた。

 しかしそれにしたって意外だ。

 強力なスキルでも持っているのだろうか。


 それと、何故役場に怪我人が集められているかも分かった。

 どうやら、戦時中ということで役場を一時的に閉鎖し、住民の不安を煽らないように怪我人を集約させているらしい。

 通りで住民には余裕があるように見えたわけだ。

 情報は正しく開示するべきだという意見もあるだろうが、現状を見せるのは危険だろう。

 混乱を招きかねないし、それに乗じて敵が仕掛けてくる可能性もある。

 伏せておいて正解だと俺は思う。


 そんなことを話している内に【大地の街】と【星の街】の援軍が到着した。



「すまない、遅くなった。途中のモンスターに手間取ってな」

「遅くなりましたわ」



 やって来たのは2人。

 身長2メートルはくだらない角刈りの巨漢と、赤髪ツインロールの女性。

【大地の街】支部長"岩城恵メグミ"と【星の街】支部長"豪炎寺朱里アカリ"。

 どんな容姿なのかは予め聞いていたが、2人とも想像以上のインパクトだ。

 特に豪炎寺さん。

 縦ロールなんて本当にいたんだな。

 異世界に行った俺ですら実物を見るのは初めてだ。

 なんでも、岩城さんは元プロレスラーで豪炎寺さんはどこかの令嬢らしい。



「2人ともよく来てくれたな」

「当然だ。これは【太陽の盾】全体の問題だからな」

「そうですわ」

「いや、マジで助かるよ」



 3人が挨拶を終えたタイミングを見計らって、3人の傍に寄っていく。

 一応指揮官だからな。

 挨拶はきちんとしておかないと。



「初めまして、竜胆大和です」

「ほう……君が……」

「お噂は伺ってますわ。相当お強いとか」

「恐縮です」

「是非手合わせ願いたいものだ」

「ワタクシもですわ」



 2人の目がギラついた。

 おっと……この2人、もしやバトルジャンキーか?

 今はそれどころじゃないだろうに。

 どうやって躱したものかと思っていると、思わぬ所から助け舟が。



「お前ら、その辺にしとけよなー」



 はああ、と溜め息を就いたのは天沢さんだった。



「強い奴見るとすぐに絡みやがって」

「嫌ですわ。冗談ですわよ。ねっ? 岩城」

「ああ」

「いや、お前ら目がマジだったろ」



 俺もそう思う。


 挨拶もそこそこに。



「さて、メンツも揃ったことだし、そろそろ本題に入ろうと思う」



 そうして、戦況の説明が始まった。



「見てもらった通り、戦況は極めて悪い」



 ──最悪、と言ってもいい。


 天沢さんはそう付け加えた。



 ランキングトップ10を4人擁する【悪魔達の宴】の人数は約1万。

 対するこちらは、隊士は約6千人。

 ランキングトップ10は天沢さんのみ。

 というのが開戦時の状況。

 そこから2日が経過し現在は、【悪魔達の宴】1万2千、幹部は健在。

 一方こちらは【空の街】3千+【大地の街】2千+【星の街】2千5百の合計7千5百名。

 そこに俺達が加わる。

 戦力差の差は明らかだった。

 後続組と【月の街】から来る予定の援軍を加えても僅かに劣る。


 ここまで戦力差が広がってしまった大きな要因は2つ。

 1つは【悪魔達の宴】に増員がされたこと。

 そしてもう1つは、そのことにより今日1日で多くの隊士が戦火に散ったことだ。



「増えるとは思っていたが、まさか4千人も増えるとは予想外だったぜ」



 曰く、昨日までは劣勢でこそあったもののここまでの差はなかったそうだ。

 それが増員された敵により大きく傾いてしまった。

 もしも援軍が来なければ、予想の6日を待たずして陥落していただろうと天沢さんは言った。


 突然だが、戦闘向きのスキルを持つ者というのは実はそこまで多くない。

 50人に1人と言われている。

 当然だろう。

 スキルとは才能だ。

 戦闘向きの才能とそれ以外の才能とでは、後者の方が圧倒的に多い。

 それ故に、1万という数は相当多いと言える。

 それも、ここはモンスター溢れる世界だ。

【太陽の盾】がそうであるように、モンスターに対抗するだけの兵力は【悪魔達の宴】も残しているはず。

 となれば、【悪魔達の宴】の総数から予想すると増員は多く見積っても2千人程度だろうと天沢さんは思っていた。

 それが、見立てを誤った原因である。



「すまねえ……っ!」



 深々と頭を下げる天沢さんであったが、誰も責める者はいなかった。

 天沢さんの予想は間違っていない。

 誰であっても同様の見立てをしていただろう。

 ただ、相手が予想を上回る何かをしただけだ。

 ではいったい何をしたのか。

 実の所答えは分かっている。

 増員された人間の過半数が、【悪魔達の宴】によって壊滅させられたユニオンの人間だったのだ。

 ユニオンが壊滅させられたことにより無所属となった人間をあえて加入させずに飼い殺すことで、総数を錯覚させたというカラクリだ。

 気付いてしまえばどうということもないが、敵は【悪魔達の宴】だという先入観が数を見誤らせた。


 あるいは、父さん達は戦争の駒にされているのかも知れない。

 可能性は高いだろう。



 ──ああ、本当に。

 連中は俺の神経を逆撫でするのが得意らしい。

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