Episode007:先発隊の指揮官



【空の街】到着の前日。


 先発隊の先頭を走るのは、第2部隊隊長神代桜黒が乗る車両であった。

 同乗者は第2部隊副隊長の緒方武丸と第3部隊の隊士8名。

 第2部隊は先の戦いで壊滅的な被害を受けている為、此度の戦に選抜されたのは隊長と副隊長の2名のみである。

 運転手を務めるのは副隊長の武丸。

 彼は助手席に座る桜黒を横目に見て苦笑いを浮かべた。



「……隊長、機嫌悪いッスね〜」

「そんなことありませんけど」



 口ではそう言うが、顔に思い切り出ている。

 原因は何となく分かっていた。

 あの竜胆大和とかいう男が原因だ。

 ぽっと出のあの男が幹部待遇なのが気に食わないのだろう。

 強いという噂は聞いている。

 なんでも相当数のモンスターと、斥候部隊を惨殺した2人組を倒したとか。

 自分達は気を失っていて見ていないが、仲間達によればその実力はユニオン長である朝陽にも勝るとも劣らないとのことだ。

 幹部になるだけの実力はあるのだろう。

 しかし、プライドの高い桜黒はそう易々とは受け容れられずにいる──と、武丸は思った。

 実際、自分も面白くはない。

 何故、これまで貢献してきた自分達と同じ扱いなのかと思ってしまう。



 ──だが2人は数十分後。

 大和の力を思い知ることになる。



 敵は2階建ての戸建て程度なら丸呑み出来てしまいそうな程の大蛇。

 黄色に赤い斑点となんとも毒々しい色合いをしていた。

 事実、アレが吐き出す唾液には強力な酸が含まれている。

 触れれば火傷では済まない。


 名は【赤斑蛇】


 本来なら総力を以て挑むモンスターだ。

 しかしながら彼は──大和は、コンビニにでも行くような軽い足取りで、たった1人で向かっていった。



「馬鹿な!! 危険過ぎます!!」



 桜黒は無謀だと止めようとするも、青藍に宥められて口を閉ざす。



(馬鹿げている……)



 桜黒は溜め息を就いた。

 自分達のように反感を持つ者へのパフォーマンスのつもりだろうか。

 いくら強いとは言っても、赤斑蛇を1人でだなんて無理に決まっている。

 自分はおろか恐らく朝陽ですら難しい。

 それでも善戦出来れば反感を持つ者は確実に減るだろう。

 少なくとも自分は認めるつもりはないが。

 そう思っていた。


 ──しかし。



「……ッ」



 彼女は言葉を失う。

 いや、桜黒だけではなかった。

 隣の武丸も同じように言葉を失っていた。

 信じられないといった様子でパクパクと口を動かしている。


 一瞬だった。

 大和が歩きながら何かを呟いたかと思うと、上空から稲妻が迸った。

 腹の奥にまで響く轟音。

 あまりの眩さに目を閉じていた桜黒が目を開けると、そこには既にまっ黒焦げになった赤斑蛇の姿が。

 偶然雷が落ちたというわけではないだろう。

 これは確実に大和が引き起こしたものだ。

 その証拠に、大蛇の頭上には黄色に輝く円環の幾何学模様があった。

 所謂、魔法陣のようなものだ。

 恐らく、あれは大和のスキルなのだろうと桜黒は思う。

 凄まじい威力だ。

 アレを向けられたらと思うとゾッとする。



「強い……ッスね……」



 ゴクリ、と隣から息を飲む音がした。



「ええ……」



 認めざるを得ない。

 彼は強い。

 自分達では到底至れないような高みにいる。

 反感を持つ者達も最早押し黙るより他ないだろう。

 改めて、この世界は実力主義なのだと思い知った。


 しかし、となれば気になるのは彼はいったい何者なのだろうということ。

 これまで竜胆大和という名を聞いたことはなく、ランキングでも見たことがない。

 それでいて実力は国内最強クラス。

 そんなこと、ありえるのだろうか。

 気になる。

 気になる……が、上から彼についての詮索はしないようにと言われている為訊くことは出来ない。

 分かっているのは彼が最高幹部達と旧友であるということ。



(まあ、味方ならなんでもいいわね……)



 あまり詮索するのは野暮だろう。

 彼が味方であることを心底幸運に思う。

 もしも敵であったら。

 もしもあの力が自分に向けられたら。

 そう思うとゾッとする。


 この一件により、大和への不信感や不満を持つものはいなくなった。

 ここまで上手くいくとは思っていなかったが、全ては青藍の狙い通りだ。



(これで、反対する人はいないでしょう)



 青藍はひとりほくそ笑む。


 ──この日、大和は満場一致で先発隊の指揮官に任命された。



「なんでだよ!!」



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