Episode013:銀髪の少女



『決行は3日後だ。皆、それまでにしっかり身体を休めておいてくれ』



 そこで話は終わり、ひとまず解散ということになった。

 皆、それぞれ仕事が溜まっているのだとか。

 忙しいのだろうけれど、帰って来て早々これで身体は休まるのだろうか。

 手伝えるものなら手伝ってやりたいが、俺には邪魔をしないことしか出来そうもない。


 ありがたいことに夜は俺の歓迎会を兼ねたおかえり会を催してくれるらしい。

 17時半頃に役場前集合になっている。

 時刻はまだ15時前。

 さて、それまで何をしようか。



「そういえば……」



 役場の北側には商店街があると言っていたな。

 そこなら時間を潰せそうだ。

 早速向かおうと商店街があるであろう方へ歩き出したその時。



「あっ、やっと見付けた。アンタこんなとこにいたのね!」



 不意に響いた声に振り返ると、銀髪美少女がそこにいた。



「詩音……」



 なお、成人しているのに美女ではなく美少女なのは、彼女の顔が童顔だからである。

 どう見ても成人しているようには見えない。

 良くて中学生。

 合法ロリだ。



「お前何してんの? というか、仕事は?」

「そんなもん、チャチャッと終わらせて来たわ!」



 ドンッと貧そ……慎ましい胸を張る詩音。



「チャチャッと終わらせて来たって……大丈夫なのかよ……?」

「ダイジョウブヨー。ダイジョブダイジョブ」



 なんでカタコト?

 というか、明らかに動揺してるよな?



「お前な……後で昴にドヤされるぞ」

「そんなの……覚悟の上よ」



 腹は決まったわ、と険しい表情を浮かべる詩音。

 まるで強敵との決戦前のような様相だ。

 ただのサボり魔が格好付けんな。



「んで、俺に何か用か?」

「そんなの決まってるじゃない。──遊びに行くのよ!!」

「ほー」



 堂々とサボって遊びに行くのか。

 さっき会った時は──外見はともかく中身は──大人になったんだなとか思ったけど、やっぱり取り消すわ。

 こいつはお転婆娘のままだ。

 誰だ、こいつに役職なんて与えたのは。



「そうか。気を付けて遊べよー」

「ええ、アンタも気を付けなさいよ──ってちょっと待てやコラ」



 チッ、このまま逃げ切ろうと思ったのに。


 俺は聞こえないように小さく溜め息を吐いてやおらに振り返る。



「なんだよ……?」

「なんだよじゃないわよ! アンタも一緒に遊ぶのよ!」

「ええ……」

「ちょっ、なんで露骨に嫌そうなのよ!? 折角久しぶりに再会出来たのに、わたしと遊ぶのそんなに嫌!?」

「いや、別に嫌じゃねーんだけれど」

「じゃあ何よ」



 詩音がムッと眉を顰める。



「だってそれ、俺も一緒に怒られるだろ?」

「安心しなさい。これはわたし1人の罪なの、アンタにまで背負わせるつもりはないわ」



 うん、だから格好付けんな。

 キリッじゃねーよ。



「分かった。分かったよ……それなら、商店街を案内してもらうかな……」

「まっかせなさい! ほらっ、早く行くわよ!」

「あ、ちょっと待てよ!」



 かくして俺は、詩音と遊ぶことになった。





 ♦





「しかし詩音さんや」



 商店街に向かう途中、俺の手を引いて歩く詩音に声をかける。



「なんだね、大和さんや」

「着替えた方がいいんじゃないかね」

「……え、なんで?」



 詩音は足を止めて、肩越しに振り返った。

 どうして不思議そうなのかが不思議である。

 何故なら──。



「……それで行くつもりか?」



 詩音は装備を纏ったままであった。

 装備と言っても朝陽や奏多とは違って重装備というわけじゃない。

 所謂、軽装鎧と呼ばれるものだろうか。

 防御力よりも動きやすさを重視したものだ。


 色は銀。

 その上から白いローブを羽織っている。

 だからそこまで物々しいというわけでもないのだけれど、俺が気になるのはそこじゃない。


 先程街で出会った時と同じ格好なのが気になるのだ。

 人が多く集まる場所に行けば、また人集りが出来てしまうのは想像に容易い。

 彼女達はこの街の英雄なのだ。

 つまり、少しくらい変装しないのか──ということである。



「いや、わたしだってそりゃ久しぶりにアンタと会ったんだからオシャレくらい……ゴニョゴニョ……」



 ほんのり頬を染めならがら人差し指同士をツンツンする詩音はいつになくまごついていて、何を言っているのか良く聞こえない。



「え? なんて?」

「なんでもないわよ! うっさいわね!」

「急にキレるなよ」



 カルシウム足りてないんじゃないのか?



「と、とにかく、わたしは着替えられないの! もし何かあったらすぐに対応しなきゃならないんだから」

「あー、そういうこと……」



 要するに、いつでも戦えるようにってことか。



「大丈夫よ。わたし、何着ても可愛いし」

「それはそうだけど……」

「ふぇッ!? それはそうだけどって……あぅ……」

「いや、お前自分で言ってなんで照れてんだよ」

「ア、アンタが変なこと言うからじゃない……っ!」

「だからお前が言ったんだろうが」



 もうなんなのこいつ。

 意味分かんない。

 誰か助けて。



「というか、俺が言いたいのそうじゃなくてだな……」

「何よ?」

「その格好だと目立つんじゃないかって話だよ。お前、今や有名人なんだろう?」

「ああ、そんなことを心配していたの。全然大丈夫よ」

「何その自信」



 逆に不安でしかないんだが。



「いいからいいから。行くわよ〜」

「ほんとかよ……」



 そう言って手を引く詩音に一抹の不安を抱きつつ、俺達は商店街へと向かった。


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