Episode014:反撃
「なあ……詩音、奏多」
「なによ?」
「ん?」
「俺さ、あいつらには結構頭に来てるんだよ」
だからさ、と継いで。
「悪いけど、ちょっと付き合ってもらっていいか? ここらで少し反撃しておこうと思うんだが」
2人はニイと笑う。
「いいわよ」
「やっちまうか!」
数的には不利だが、まあ、何とかなるだろう。
どうせ逃げ場はないのだ。
ピンチはチャンスである。
「行くぞ!!」
俺は短剣を抜いて駆け出した。
「──大和に続けえええッッッ!!」
奏多の声に隊士達が呼応する。
待ってましたと言わんばかりだ。
彼等も連中に対するストレスが溜まっていたのだろう。
あれだけ傷付いた仲間を目撃したのだから無理もない。
俺は大将首をと竜崎涼に狙いを定めて突貫するも、奴の仲間が立ちはだかった。
雑魚に用はない。
的確に急所を狙い、確実に一撃で殺していく。
散々傷付けたのだ。
散々殺したのだ。
殺されたって文句はないだろう。
戦いながら周囲を一瞥すると、仲間達も奮闘していた。
人数差をものともせず次々と敵を屠っていく。
特に凄まじいのは奏多。
普段はおちゃらけているが、これでも日本のトップランカーだ。
先日の戦いでランクを上げ、現在11位となった奏多の前に敵はいない。
雑魚では全く太刀打ち出来ていなかった。
この中だと、まともに相手になるのはそれこそ竜崎涼くらいのものだろう。
だが、全ての人間がそうというわけでもない。
精鋭といえど、それはあくまでもモンスター退治のエキスパートであって人殺しのエキスパートではない。
やはり少なからず躊躇いがある者も見受けられた。
躊躇すれば殺られる。
そういう者は、周囲の者にフォローされながら何とか戦っていた。
無理からぬことだ。
経験がないのだろう。
俺だって、初めて人を殺した時は震えたものだ。
悪夢に魘されたこともある。
それでも後悔はしなかった。
殺さなきゃ、殺されてたのは俺だったから。
今だってそうだ。
殺らなきゃ殺られる。
それが分かっているから、経験のない者も躊躇いながら武器を振るう。
人を殺す。
正しいことだとは思わない。
だけど俺は、仲間を護れるのなら悪者だって構わない。
次第に積み重なる死体の山。
その中にはまだ、仲間の姿はない。
圧倒している。
俺も4、50人は殺っただろうか。
この調子なら、殲滅も可能かと思われた。
ーーその時。
「──死、ね、や、コラアアアッッッ!!」
上空から、何かが降ってくる。
俺は咄嗟に後ろに跳んだ。
轟音が響き。
砂塵が舞う。
周囲にいた人間は余波に耐えきれず吹き飛ばされた。
残ったのは俺1人。
幸い少し離れた場所で戦っていたおかげで仲間達は無事なようだが、俺と相対していた敵の中には起き上がれそうもない人間もいる。
どうやらこいつには、敵も味方も関係ないらしい。
土埃の中から現れたのは、【悪魔達の宴】最高幹部、竜崎涼。
のこのこやって来るとは都合が良い。
竜崎は鋭い眼差しで俺を睨みつけると、徐ろに口を開く。
「テメエ、ナニモンだよ?」
「なに、名乗る程の者でもねえさ」
肩を竦めてみせると、竜崎は露骨に顔を顰めた。
「……まあいい。どうせテメエはここで殺す。名前を訊いた所で意味はねえ」
「俺はお前を知ってるぜ。【爆笑隊】隊長、竜崎涼……だろ?」
──どの辺を笑えばいいのかよく分からないが。
と、付け足す。
「……テメエ、喧嘩売ってやがんのか!? そうなんだろ!?」
「なにが?」
ピキピキと竜崎の額に青筋が浮かんだ。
「【爆笑隊】じゃねえ!! 【爆竜隊】だバカタレがッッッ!!」
「え、うそ。ごめん」
本気で間違えた。
「殺す。テメエだけはぜってえ殺す。──〈スキル:
竜崎の身体が淡く光る。
光が収まると、青い鎧を身に纏った竜崎の姿がそこにはあった。
鋭い鱗の様な鎧は、まるで竜を彷彿とさせる。
さながら特撮ヒーローの変身のようであった。
特攻服はそのままなのでヒーローっぽくはないが。
〈スキル:竜鎧〉か……。
ユニーク程じゃないが、珍しいスキルだ。
ちょっと厄介かもな。
先手を譲ってやる理由はない。
「〈中級雷魔法:落雷〉」
竜崎の頭上から稲妻が降り注ぐ。
それも1つじゃない。
構築した魔法陣は全部で5つ。
変身するのをただ黙って待っているはずがなかった。
「──いってえな!! コノヤロウ!!」
んー、しかし効果はイマイチのようだ。
〈スキル:竜鎧〉は魔法耐性高いからな……。
魔法はあまり通じないかも知れない。
流石はランキング10位といった所であろうか。
やはり、少しばかり厄介だ。
「次はこっちから行くぞ!!」
竜崎は10メートル程あった距離を一瞬で踏み潰し、収斂させた拳を放つ。
その速さは四手猿の比ではなかった。
されど、躱せない程ではない。
身を捩って拳を躱し、振り返りざまに逆手で抜いた短剣で斬り付ける。
「チッ」
胸の辺りを斬り付けられた竜崎は舌を打って後方へと跳ぶ。
当たったのはいいが、ちょっと浅い。
ダメージ はないだろう。
「やるじゃねえか」
「そりゃどうも」
竜崎涼も弱くはない。
〈スキル:竜鎧〉は確かに少し厄介だし、雑兵とは比べるべくもない。
だが、今のやり取りで確信した。
負ける気は微塵もしない、と。
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