第13話 うららぎです!! つう(2)
「集塵きてみろ! これ何だか分からないけど凄く美味しそうだぞ」
「それはーー!! カルビ炭火焼き弁当だねーー! 毎年改悪されてるけど美味しいよぉ〜!」
「ぎゃーー!! き、貴様は誰だー!!」
「うららぎでーーーーーーっ」
バコッ!!
「痛いっ! いきなり後頭部にバコッて殴られたような痛みが! ちょっと誰か確認して下さーーい! 赤くなっていませんか!!」
銀髪に近づいたウサギを思わず反射的に殴ってしまった……デカい声でいきなり説明始めやがって、怖いわ!
どうやら痛がっているようだが着ぐるみだし、たいしてダメージないだろう……良い子は真似しちゃ駄目だけどな。
「安心しろ……全身ピンクなんだから少しくらい赤みがあった方がグラデーションかかって丁度良いくらいだ」
「貴方が殴ってきたのですかーー!? 酷いっ! わたくしはカルビ炭火焼き弁当の説明をーーして差し上げようと……っ」
バコッ
「痛い! 今度は前から! しかもお腹! 攻撃反対です!」
「誰もお前を呼んでいないし、訊いてもいないからな? そんな姿でいきなり大声で話かけられたら怖すぎるし、読んでる人も誰だか分からないじゃないか」
「お嬢ちゃん!! この怖いお兄さん!! 何とかなりませんかーー!!」
うららぎと名乗るピンクのウサギは銀髪に助けを求めているようだが、銀髪は弁当に夢中のようだし、眼中にないだろうな。
――そういえば、さっきからウサギしか見ていないけど他に店員はいないのかな? オープン初日に一人って、スタートから終わってるだろ……
そう考えると何だか可哀想な気もしてきたな……せめて名前で呼んでやるか。
「なあ、うららぎさんって、もしかして店長さんですか?」
「いえ!! わたくしはアルバイトでしたーー!! そんなことより殴ってきたのを謝ってくださいよー!!」
でした……って何だよ。声大きいよ。
「じゃあやっぱり店長さんじゃないの? よく分からないけどオーナーとか言うやつかな?」
「いえーー! ですからーわたくしはアルバイトでしたーー!!」
「さっきから気になってるんだけど、アルバイトです、じゃないの?」
「あっ! いえいえ! わたくしは先程から申し上げているようにーーアルバイトでしたーー!!」
アルバイトでしたって、ここ今日オープンだよな? となると他の店でアルバイトしていて、この店で働くことになったということか?
「あー! 分かったぞ! 社員さんだ!」
「いえーーアルバイトーーでした!」
「……その着ぐるみ脱がしてやってもいいんだぞ?」
「脱がすも何もーーーー!! これが私の身体ですから!!」
「背中にチャックのついた身体なんてあってたまるかよ、リラック……いや、何でもない」
「お客様っ!! まだ宇宙をご存じないようですねっ!!」
「おまえ友達いないだろ?」
「……」
また変なのが出てきたな……銀髪だけでも面倒なのに、正直これ以上ややこしい奴に関わりたくないんだよ。ウサギがアルバイトだろうが何だろうが、どうでもいいし。
俺もこの何たら弁当でも買って、早々に店をでることにしよう。
「銀髪、その何たら弁当買っていくか?」
「お客様ーーーー!! す、炭火焼きカルビ弁当ですーーーー!!」
「
「ああああああああああ! 申し訳ございませーーーーん!」
「銀髪、俺もそれにするから二個な」
「おう! 分かった!」
「無視しないでくださいよーーーー!!」
「あれ? そういや五十嵐さんは何処いった?」
いつからか五十嵐さんの気配がしなくなっていた気はしていたのだが、店内を見回しても見当たらない。もしかして……
俺はポケットからスマホを取り出すと五十嵐さんからの通知に気が付いた。カインに何か届いているようだ。
「えーと、なになに……そこ怖いから先に戻ってるね。カルビ炭火焼き弁当買ってきて! エヘヘ♡」
ちゃっかりしてんなー、後で金は返して貰うか……。
「銀髪、あと一個追加な」
「おう! 任せろ集塵!」
「まいどーーありがとーーございます!!」
「いや、毎度も何も今日オープンだろ……」
よし! これで、とりあえず食い物は確保したし飲みものはマンションの自販機でも利用すればいいだろう。その方が冷たいのが飲めそうだ。
「じゃあ、うららぎさん、これ下さい」
俺は銀髪から弁当三個を受け取ると目の前にいるピンクのウサギに差し出した。
「ありがとうございますーーーー!!」
「あのさ、その大声どうにかならないのか? 声大きすぎて怖いよ」
「いえーーお声が届かないとーー思いましてーー!」
「聞こえるだろ……普通に話してみろよ」
「わたくしの声が聞こえますか?」
「聞こえるけど……」
「……」
何で大声にしたかな……
「で、代金は全部で幾らなの?」
「あっ、お客様、お支払いは電子マネーをお使いでしょうか?」
「それでいいよ」
「それは良かったです。当店は電子マネーのみのお支払いとなっていますので、そのまま商品をお持ちになり、出口へ向かって頂ければ決済されますので」
「へー、すげーじゃん! 無人何たらみたいなやつ? テレビでみたぜ! ん?……おまえの意味は?」
「……」
――この後、俺と銀髪は無事支払いを済まして「ご利用有難うございました!!」という、うららぎさんの大声を背に店を出た……外はもう完全に陽が落ちて辺りは真っ暗だ。等間隔で置かれている街灯の放つ光が頼もしく感じる。
「銀髪、美味そうな食い物見つかって良かったな」
「うん!」
「戻ったら五十嵐さんと三人で食べようぜ」
銀髪はニコニコして上機嫌だ。マンションに到着したら自販機でオレンジジュースを買っていくことにしよう。勿論100パーセントのやつだ。
……それにしても変なウサギだったな、大体なんで着ぐるみの格好なんてしてるんだ。何が私の身体だよ……
「ん?」
気がつくと俺の袖口を、くいくいっと銀髪が引っ張っている。
「なんだ? どうかしたか?」
「集塵、うららぎの姿は着ぐるみなんかじゃないぞ? あいつは嘘をついていない」
「……」
――着ぐるみじゃないっていうのか? チャックが気になって仕方がないのだけれど、それがタイツの力だというのなら嘘じゃないんだろう……。
「それと今度、謝っておけよ。集塵に叩かれて、あいつショックを受けていたぞ」
「それも心を読んだのか?」
銀髪は少し考えるように黙っていると、軽くコクンと頷いてみせた。
「そうか……ごめんな」
「わたしに謝るなよ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます