第159話 うさぎのらびっと
俺の目に映ったのは五十嵐さんの姿だ……もう夜遅くなのに、どうして外にいるんだ?
「ご、五十嵐さんか、誰かと思ったよ。なにしてるの?」
「ちょっと、寝れなくて……外の空気すいたくなった……かな」
「そうなんだ」
「うん……集塵くんこそ、どうしたの? お出かけ?」
「え? あぁ……俺は今から、うさぎのらびっとに行くんだよ。銀髪のお弁当が底をついてるから、在庫を確保ってところだな」
「ふーん、そうなのねー。ねね、あたしも一緒に行ってもいい?」
うーん……別に断る理由はないけど、さくっと言って帰ってこようと思っていたんだよなぁ……でもまぁ、五十嵐さんと二人きりで話すのも久しぶりな気もするし、一緒に行くとするか。
「いいぜ。一緒にいこう」
「やったー! ありがと。エヘヘ♡」
五十嵐さんは嬉しそうな笑みを見せながら、俺の方へと近付いてくる。距離が近づくと、ほんのり良い匂いが漂ってきた。お風呂あがりなのかな?
「じゃあ、いこうぜ」
「うん!」
二人で歩く、この道は、もう何度も行き来しているはずなのに今日は不思議と新鮮だ。
夜ということもあって辺りが静まり返っているせいなのか、彼女をいつもよりも近く感じる。
まるで、今、この地球上には俺たちしか存在していないかのようにすら思えてきた……。
元々、美少女ではあるけれど、月明かりに照らされた彼女の横顔には、ついつい見惚れてしまいそうになるな……。
「……銀髪ちゃんは元気になった?」
「え? あぁ……そうだな。すっかり元気になって、お腹空いたとか突然いいだしてさ、ねこがとっていた弁当を頬張ってるよ」
「あははっ、それじゃあ急いで追加の分を買って帰ってあげないとだね」
「そうだな」
「でも、良かった。さっき、みんなでご飯食べていた時、あまり食欲なさそうだったから。少し残していたよね?」
五十嵐さん……気がついていたのか……。
「そうなんだよ。俺も少し心配はしていたのだけど、今は元に戻っているから心配ないと思うぜ」
「それなら、もう安心ね」
「ああ……」
性格まで元に戻ってしまったけれどな……とはいえ、このことを話していいものかどうか……まぁ、空間移動も見られているわけだし、今更だけどな。
そのことも含めたうえで、後々しっかり説明するべきなのかもしれない。
「ねぇ……集塵くん……」
「え? 何?」
「……あたしがもしも……」
「うん」
どうしたんだろ? 気のせいか急に深刻な空気が……なにかあったのか?
「もしもね……もしもあたしが……」
――ウ〜、ウ〜、カンカンカンッ
五十嵐さんの言葉を遮るように突然、消防車のサイレンが辺りに鳴り響いた。
「ん? こんな時間に火事か?」
俺は辺りを見回すと、少し先に大きな炎が立ち上がっている。
「集塵くん……あの火……うさぎのらびっとの方じゃない?」
「え!? まさか……」
たしかに位置でいえば、あの辺だけど……。
「行ってみよう! 五十嵐さん!」
「うん!」
俺と五十嵐さんは燃え上がる炎を目にしながら、コンビニまでの道のりを急いだ。
――煙と、ともに高く燃え上がる炎に近づくにつれ、肌に熱を感じると同時に、予想は確信へと変わっていった……いつもの角を曲がった俺たちの目に映ったのは炎に包まれた、うさぎのらびっとで間違いはなかったからだ……。
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