第96話 ただいま……!

 俺はねこじょのイラストが描かれたコラボ弁当を手に購入を悩んでいる。スーパー白倉特製焼肉タレか……食べたことないけど、スーパーって言うくらいだから美味しいのだろう。いや、まてよ……。


「このスーパーってスーパーマーケットの略の方か……」


 中身が見えないからなぁ……これは悩む。


「あっ……そうだ! いいことを思いついたぞ!」


 ねこの分を違う弁当にしたらいいんだ……戻ってからコラボ弁当の中身を確認して不味そうなら入れ替えよう。うん、それがいい。


 ねこは文句を言わないだろう……そもそも俺はあいつの好みとかを理解してはいない。


 そうと決まれば別の弁当をもう一つ選ぶとするか……俺が食べてもいいと思えるものにしないとな。


「うーん……とはいえ……このラインナップは悩む……お? これは美味そうだ」


 棚の奥を覗き込むと美味そうな弁当が一つ目に入る。俺は手を伸ばして、それを引き出した。


「ハラミ炭火焼き弁当か……これにしよう!」


 なんだか凄く美味そうだな……ねこじょ弁当とか、どうでも良くなってきた。これは余程の内容でもないかぎりハラミの方が食べてみたいかも。


「これで必要なものは全て手にいれたな……弁当を選ぶのに時間を取られてしまった」


 急いで帰らないと……俺も腹が減って仕方がない……。



 レジを通してスーパー白倉を出ると雨はすっかり止んでいて、街灯に照らされる濡れたアスファルトの光が輝いて美しく感じた。


「仕事の資料に写真を撮っておくか……」


 今、俺が目にしている光景をそのまま収めることは難しいかもしれないが、記憶を呼び起こす手助けくらいにはなるだろう。俺はスマホを取り出しアングル違いのものを数枚撮影した。


「よし! こんなところだろう」


 あとの雰囲気とかの空気感は俺自身がしっかりと目に焼き付けておかないとな……。


「……と、のんびりしてる場合じゃなかった……正直もう体力の限界ではあるけれど、もう一走りするか……」


 俺はスーパー白倉の店内から漏れる照明の光を背に家路を急ぐ……。



 ――雨が止んでいたこともあって、思った以上に早く自宅マンション前まで着くことが出来た。


 所々に出来た水溜りを誤って何度も踏んでしまったが、既に足元はびしょ濡れなので特に気にせず走り続けてしまったことを少し後悔している。


「靴の中が気持ち悪い……この靴、明日洗っておくかー」


 俺は気を取り直して部屋のドアノブに手を伸ばす。五十嵐さんと肩ちゃんは既に食べているだろうけど、ねこはお腹空かしているだろうな……銀髪は……戻ってきているだろうか?


「ただいま。遅くなってごめんな!」


 ――俺はドアを開けると同時に大きな声で帰宅を知らせた……。

 

 








 

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