第81話 503号室の住人……!

 銀髪を病院へ運ぶために俺たちは部屋を飛び出した。


 偶然、会ったコミアの話では弟さんがこのマンションの上階に住んでいるらしく、銀髪のことを助けてくれるという。


 どんな人なのかは分からないけれど、今は一刻を争う状況だ。助けて貰えるというのなら是非ともお願いしたい……話に乗ってみるか……。


「どうしたんだい? その子を助けたいんだろう? ついてきなさい」


「あ、ああ。頼むよ。肩ちゃん、いこう」


「はいっ!」


 俺たちはコミアと一緒に一階のエレベーターに乗り込む。コミアは階数のボタンを押した。


「あ……」


「ん? どうしたの肩ちゃん」


「いえ、嵐ちゃんと同じ五階なんだなって、思ったのです」


「たしかに……」


 あれ? たしか五階って、うららぎが住んでいなかったか? まさか弟って……いやいや、まさかな……あれはコンビニの店員……じゃないか……え? もしかしてうららぎって医者なの? 嘘だろ?


「あの……コミアさん。弟さんって、なんていうか普段ピンクの着ぐるみとか身に付けていたりしません? 耳が長いうさぎのような……」


「どうかしら? 色々なものを扱っている変態だからねぇ……もしかしたら持っているかもだけど、あたくしは見たことないわ」


「そ、そうですか……」


 ち、違うのかな?


「ついたわよ……早く降りなさい」


 エレベーターが五階に到着するとコミアは足早に共用通路を進んでいき503号室の前で足を止めた。


 たしか、うららぎの部屋は502号室だったはずだ……別人か……良かった。


「坊やたちは運がいいわね……本来この時間に弟はいないことが多いけれど、今日は一日中部屋に籠っているからカルビ炭火焼き弁当が欲しい、なんて連絡がきていたの。間違いなく部屋にいるはずよ」


 コミアは、そう言うとインターホンのボタンを押した。


――『はい、どちらさまで?』


 インターホンから男の声が聞こえてきた……ん? どこかで聞いたことのあるような……。


「コミアよ……ちょっとお願いがあってきたの……開けて頂戴」


――『あーー。カルビ弁当か? 遅かったじゃないかー。今、開けるからまっててよ』


 ガチャ


 部屋の鍵を開ける音が聞こえ、ドアが静かに開く。


「やぁ、コミア姉さん。お願いってなんだい?」


「「!?」」


「あーーーー!! モウツαくん! 嘘でしょーーーー! えーーーー!」


 肩ちゃんは勿論だけど俺も驚いた……まさか、さっきまでテレビで観ていた人物が目の前に現れるなんて思っても見なかったぜ……しかもコミアの弟って……嘘だろ?


「なんだ、なんだー。騒がしいなぁ……人が新型ヘッドホンのテストをしていたのに……サインなら後にしてくれないかい。コミア姉さん、もしかしてこの人たちにサインを書いてくれだとか握手してやってくれとか、そういうのじゃないだろうね?」


「ちがうわよ……そんなくだらないことで来るものですか……実は診てもらいたい子が一人いるの」


「ん? どういうこと?」


「坊や、その子をこっちに」


「あ、ああ! 分かった!」


 俺はモウツαの前に銀髪を運ぶ。


「ほぉ……これは……まぁまぁ、やばそうな状況だな……なるほど、こういうことか……」


「お前なら何とか出来るでしょ? 頼まれてくれる?」


「分かったよ。助けてあげよう。それにこの症状は恐らく僕にしか治せない」


 どういうことだ……まったく理解出来ない……モウツαは医師免許とか持ってたりするのか?


「あ、あのさ……ありがたい話なんだけど、大丈夫なのかな?」


「ん? なんだい? どういう意味かな? この天才の僕に任せられないと?」


「いや、そういうわけじゃないんだが……そのなんていうか、あんた発明家なんだろ? 病気とかそういうのは分野外じゃないのか?」


「ははは。なんだ、そんなことか……この子の症状は病気のそれじゃない。むしろ僕の分野に近いのさ。安心していい、僕に任せるんだ」


 ――ほ、本当に大丈夫なのか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る