第41話 ピンクの暴走ーーーー!

 ヤクモは物凄い形相で俺を睨みつけてきている……両腕を上げたかと思うと頭に巻いているピンクのネクタイをおもむろほどき、それを足元に放りなげた。


 強く握った俺の拳に汗が滲む……


「おい! お客様!」


「なんだよ……丁寧だか雑なんだか分からない言い方しやがって」


 俺が返事を返すとヤクモは上着の内ポケットから何やら細長い箱のような物を取り出した。


 なんだあれ? 気のせいかピンクの可愛いリボンがついているように見えるんだが……あれじゃあまるでプレゼントじゃないか。


「これを受け取ってくれ……お客様」


「!?」


 なんだこの展開は……ヤバい物でも入ってるんじゃねーだろうな? 


「いや、お断りする……睨みながらプレゼントを差し出してくるような奴から受け取りたくはない」


 というか、この男……何でネクタイ外したんだよ? 行動が意味不明で恐ろしすぎる。てっきり戦闘態勢にでも入ったのかと思ったぜ……驚かせやがる。


「僕はヒカリちゃんを迎えに来ただけなんだ」


「知ってるよ」


「良かった……でしたらこれを受け取ってくれるんだろうな?」


「その安定しない話し方、何とかならないのかよ……」


「いいから受け取れーーーー!!」


 ヤクモは手に持つその箱を勢いよく俺に投げつけてきた。俺は咄嗟とっさ手刀しゅとうで真下に叩き落としたが箱は壊れて中身が飛び出した状態になってしまった。


「いきなり何すんだっ! あぶねーだろっ! ん? 箱の中身……ネクタイか?」


「お客様! なんてことを……お怪我はねーのかこらっ!」


「手がいてーよっ! つうか、何でネクタイなんだよ! しかも良くみたらお前とお揃いじゃねーか! いらねーよ!」


「ぐぬぬ……僕とお揃いのネクタイを着ければ仲良くなれたものを……謝るなら今のうちですよ、お客様」


「壊したのは悪かったスマン。でも、いらねーし仲良くなれねーからな」


「そうですか……残念です。口で言っても駄目なようなら力ずくで分からせるしかなさそうです」


「もう既に物を投げつけてきたり、十分力ずくだけどな……」


「覚悟はいいですかっ!! 僕は全力でお客様を倒してヒカリちゃんを取り戻すっ!」


 ヤクモは大声で叫ぶと真っ直ぐ突進してきた。いつの間にネクタイを拾いあげたのか、それを振り回している。


「いてまえっーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 言葉の使い方は間違っているがヤクモの気迫が凄い! 俺は思わず瞬時に目を閉じ身構える!


「さよならっ! お客様さまっ! ハーっハッ……ぐおぉぉぉぉぉっ……」


 ん? 痛くない……どうしたんだ……何も感じないぞ……?


 ヤクモが俺に襲い掛かってきたはずなのに俺は何の痛みも感じていない……状況を確認するため恐る恐る目を開けると、そこには予想もしない光景が……


「さっきから大声あげてーーーーーー!! 五月蝿うるさいですよーーーーーー!!」


「うららぎっ!!」


 何処から現れたのか、ピンクの着ぐるみのうららぎがヤクモの首を鷲掴みにしかかげるように吊り上げ怒鳴りつけている。ヤクモは苦しそうな表情をして足をバタつかせていた。


「折角のお休みでーーーーゆっくり寝れるかと思っていたらーーーー! ここはーーーー共用通路ーーーーーー! わかりますかーーーー!」


 まさか……


 俺はうららぎの立つ場所の部屋番号と表札を確認した。


「502……うららぎ……」


 五十嵐さんのお隣さんじゃねーか! こいつ俺と同じマンションに住んでやがったのか……


「ぐっ……は……はな……せ」


「いいですーーーーよーーーー! はなしーーーーてーーーーあげーーーーますーーーー!」


「は……はやく……くる……し……」


「もう五月蝿くしまーーーーせんーーかーー!」


「し……しな……い……」


「やーーーーくーーそーーーーくーーーー」


「す……する……げほっ」


「では離しましょうーーーー!」


 うららぎは掴んでいた手を離すとヤクモは転がるように地面に落ちた。ゲホゲホとせていて相変わらず苦しそうだ……うららぎ力ありすぎだろ……こえーよ。


 ――それにしても……なんで自宅でも着ぐるみなんだよ……。

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