第19話 最後の一枚

「やだやだやだやだやだ!」


「あのな……正直、俺は遊んでいる暇なんて無いんだ。もう深夜なんだし、いい加減お前は寝ろよ」


「やだやだ! もっと描いてみたいー!」


「別に今じゃなくてもいいじゃねーか、明日いくらでも触らしてやるから我慢しろよな」


「今が楽しいの! 明日なんてやだー!」


 銀髪は液晶タブレットに覆い被さるようにしてしがみつくと、そこから離れようとしない。こんなことなら触らせないで無視しとけば良かったぜ……やはり善人の心は時にして弊害をもたらすな。


 とりあえずコイツを液晶タブレットから引き剥がさなくては……


「こらっ! 離せ! この!」


 俺は銀髪の腕を掴んで拭き剥がそうと少し力を入れてはみたが必死にしがみついて、その小さな身体を剥がすことが出来ない。


 この小さな身体の何処にこんな力があるんだ。頑として動かない小動物か何かかよ? 更に銀髪はしがみついた状態で頭をブンブンと左右に振って嫌々アピール全開だ。


 おかげで銀色の髪の毛が顔にバシバシ当たって顔も痛いし目もチカチカしてきてイライラしてきた。


「いー加減にーはーなーせー!」


「むーー! やーやーなのー!」


 必死にしがみつく銀髪に俺は怪我をさせないよう少しずつ慎重に力を加えていく。


「うーん、剥がれん……」


「もっと遊ぶーー!!」


 醜い争いを続けていると、銀髪は突然大きな声で叫びだして顔面を画面に打ち付け始めた。


ガンッガンッ! ガンッガンッ! ピーーーーーーーーーーーーッ!!


「「!?」」


 打撃音の後を追うように突然机の下に置いてあるPCの方から電子音が鳴り響き、その音に驚いたのか銀髪は逃げるようにして画面から身体を離した。俺はその瞬間、銀髪の両肩を押さえつける。


「捕まえたぞ!……って、んんんん?」


 ふと机の上の液晶タブレットに目をやると画面の中に沢山の画像が何十枚と開き続けている……さっきの電子音に関係あるのか原因は分からないけれど、恐らく俺と銀髪が揉みあっている最中に画面の何処かに触れてしまったのかもしれない。


「やばっ! まじかーーーー!」


「おお! 集塵! 画面の中が賑やかで楽しいなっ!」


「ちっとも楽しくねーわ! ってかお前のせいだからな!」


「集塵が無理やりわたしを引っ張るからだ! 人のせいにするんじゃない!」


「お前が画面に顔面を打ち付けるような奇行に走るからだろ!」


 まあ、それじゃあ画面は反応しないんだけどな……それより画面に顔面のあたりで舌を噛みそうになったじゃねーか!


「知らないもん!」


 もはや原因なんてどうでもいいわ……どうやら俺たちが言い合っている間、画面に表示され続けた画像ファイルは全て開かれたようで動きは止まったみたいだ。


 ……どうやら昔描いた絵を保存しておいたフォルダの画像データが全て開かれてしまったようだな、思ったよりは多くなかったみたいで良かった。


 何百枚と保存するのはざらだからな……


「まったく、何処を触れたらこんなことになるんだよ……」


 俺は画面の中に大量に開かれた絵を一枚づつ確認するように閉じていった。


「やっぱり結構前に描いたものを、まとめておいたやつだよな……これは懐かしい」


「わあ! 色々描いてるんだねー」


「お前はいつも突然乱入してくるな」


「おう!」


「おう! じゃねーよ……うーん、学生の頃に描いた物も混じっているみたいだ」


 俺は、何だか懐かしくなり開かれた絵を閉じる指が自然と遅くなっていった。いつの間にか銀髪と二人で鑑賞会のようになってしまっているな。


「これは何処なのだ?」


「あーこれも学生の頃に描いた物だな、教室からみた景色だよ、奥の方に見えるのが伝説の木下きのしたと言われている」


「ほぉーみんな綺麗だな!」


「お、おう……さんきゅ」


「えーと……次で最後か……な」


「「あっ……」」


 俺と銀髪は最後に表示されていた絵をみて、同時に声を漏らしてしまっていた。


 ――なぜなら、そこには満面な笑顔をしている五十嵐さんの姿が表示されていたからだ。

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