第18話 まっすぐな線

「電源ポチッと」


 明日まで仕事は休もうと思っていたけど、銀髪や、ねこのことを考えると少しでも手を動かしておいた方が良い気がして、深夜だというのにPCの電源を入れてしまった。


 昔は紙に描くのが主流だったようだけど、俺はPCを使って描く方が好きだから今の時代で良かったと思っている。


「とりあえずこの一枚だけでも終わらせておくか……」


 今、依頼がきているのはゲームソフトの特典に使うイラストだ。今回使用するものは大きめに描かないといけないからギャラは良いのだけど、手間がかかる……ここ数日バタバタしていたし前もって進めておいて良かった。


「集塵、何してるんだ?」


 いきなり声をかけるなよ……びっくりして線がブレるだろ……やり直しになったらどうしてくれるんだ。


「……絵を描いている」


「絵?」


「そうだ、邪魔するなよ……」


「見せてくれ!」


 いや、だから邪魔するなと話したばかりじゃねーか……銀髪は俺の描いている絵を除き込もうとピョンピョンと床を跳ね始めた。


「だーー!! 画面が揺れるだろ!! 大人しくしていろ!」


「集塵がケチだから悪いのだ! 見せろ!」


「たくっ……少しだけだぞ」


 これ以上、邪魔をされてもかなわんからな……俺は席を立つと銀髪に向かって椅子の背もたれを軽く叩いて座れという合図を出して見せた。


「人を動物のように扱うな! 失礼なやつだな……ハイっ!」


 銀髪は突然、両手を上にあげて万歳のようなポーズをしたかと思うとじっと立ったまま動かないでいる。


「ハイっ!」


「なんの真似だ?」


「口にしないと分からんのか! 抱っこだ! 早くしろ!」


「なぜ俺がお前を抱っこしてやらないといけないんだ……」


「お前がその椅子に乗れと合図を出したのではないか?」


「分かってるなら座れよ」


「集塵こそ、椅子に移動して欲しいなら、わたしをそこまで運ぶのが礼儀だろ」


「そんな礼儀、聞いたことねーよ」


「早くしろ! ハイっ!」


 ハイっ! じゃねーよ……仕方ねーなーこのままじゃ朝まで立っていそうだし、座らせてやるか。俺は小さな子供にするように銀髪の身体をゆっくりと抱え上げた。


「ん? お前、想像していたより軽いんだな」


「レディに対して体重の話をするなー!」


「軽いんだからいいじゃねーか」


「そう言う問題ではないのだ! いいから早く椅子に乗せろ」


 あまりの軽さにずっと抱き抱えたままでいてしまった。さっさと座らせて終わりにしよう。


「集塵、どこに絵があるのだ?」


「ん? 目の前に薄いテレビみたいな物あるだろ? それは液晶タブレットって言ってその画面にペンを使って直接絵を描くことが出来るんだぜ? 真ん中に俺が描いた空が表示されいるぞ」


「……写真ではないか」


「いや、それ絵だから」


「これ絵なのか!! 集塵が描いたのか?」


「他に誰がいるんだよ……」


「おまえ! 凄いんだな! ただの変態じゃなかったのかー」


 誰がただの変態だよ……銀髪は俺の描いた絵をみて目をキラキラと輝かせている。こういう姿を見せられると、この仕事を選んで良かったと思えてくるな。


もう少し喜ばせてやるか……


「少し描いてみるか?」


「おおおおおおおおおおおおおお! いいのか!?」


「ちょっとまってろよ」


 俺は自分の描いた絵をセーブして閉じると新しい白いデジタルのキャンバスをモニター上に作り上げた。あとは……ぺんの太さを……これくらいかな? 色は黒でいいだろう。


 「よし! これで準備が出来たぞ! これ使って何か描いてみろよ」


 俺は液晶タブレットに付属でついてきたデジタルペンを銀髪の細指に握らせた。


「ここに描いていいのか?」


「うんうん、その白い四角の部分にペン先をあてて描いてみ」


「こ、こうか?」


 銀髪は俺の言われた通りにペン先を画面にあてると、左から右に勢いよく真っ直ぐな線を引いた。


「おおおおおおおおお! 見ろっ、集塵!! 線が引かれているぞ!! 凄いなコレ!」


「楽しいか?」


「うん! これ楽しいなー!」


「そうか、なら早く椅子からどいてくれ」


 すまないな銀髪、可哀想だが朝までに一枚なんとしても仕上げたいんだ……。

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