第17話 スペアリブの女

 あれから、ねこは結局行くあてがないという理由で、俺の部屋にそのまま住み着いてしまった。


 今日は平日なので五十嵐さんは学校へ行っているし、ねこは五十嵐さんから、もう遊んでいないからと貰い受けた古いゲーム機をずっと夢中で遊んでいる。今も絶賛ゲームオーバー中だ。


 そういや、うっかり忘れていたが昨日、銀髪が調理されたスペアリブを何処かの知らない女に貰っていたな……あれって結局どうしたんだ?


「銀髪、昨日お前が右手に持っていた肉片だけど、あれどうしたんだ?」


「あれなら喰ったぞ! 美味しかった」


 やはり食ったのか……


「どこにいったらそんなもの貰ってこれるんだよ……まさか盗んだんじゃないだろうな?」


「失礼なやつだな、わたしがそんなに貧乏にみえるか?」


「見えるも何も金持ってないだろお前……」


「持ってるもん!」


「はあ? なら見せてみろよ」


「やだ!」


 これは持ってないな……それより気になるのはスペアリブを配っているという女だ……また銀髪が貰ってきてしまうかも知れないし今後の為に、ちょっと様子だけでも見ておきたいところだ。


 よし! そうと決まれば今日は仕事はお休みだ。銀髪をつれて、その女を探しにいってみるか。


「銀髪、昨日のスペアリブまた食べたいか?」


「喰えるのか!?」


「いや、約束は出来ないが、もしかしたら貰えるかもしれない」


「おおー! 本当か!」


「おう! 善は急げだ! そのスペアリブ貰った場所を案内してくれよ」


「おっけー! グーググ!」


「……」



 ――十分ほど歩いただろうか? 銀髪の話によると、この間オープンした、うさぎのらびっとの前あたりに、その女はいたらしい……意外と近かったな? とりあえず店前に到着してしまったが、それらしい女は見当たらない。


「うーん、いないな……そりゃそうか、毎日いる方が不自然だもんな」


「スペアリブ貰えないのか?」


「丁度コンビニもあることだし、中で時間潰しながら待ってみようぜ?」


「また弁当買っていいか?」


「肉はやめとけよ……カルビに牛タン続きだからな……」


「んじゃ、入るか……ん? おっと!」


 俺たちがコンビニの中へ入ろうとした瞬間、突然中から女性客が出てきた。この怪しいコンビニを利用する人いるんだなっ……て……ちょっとまて、なんだあの胸元に抱えた大量の肉!! 全部スペアリブじゃねーか!


 まさか……この女性がスペアリブの……


「ん? おめーは昨日、あたしの配るスペアリブを何個も取っていったやつじゃねーか!」


 スペアリブを抱えた女は銀髪のことを覚えていたようで目線をさげて言い放った。


「おおおおう! ねーちゃんまた、お肉くれ!」


「昨日、散々くれてやったじゃないの! 他にも欲しいガキは沢山いるんだ、火傷する前に一個にしときな」


 銀髪の奴、何個も貰ってやがったのか……しかし、このお姉さんスゲー迫力だな……全身真っ赤なライダースかよ……肉汁が少しついたくらいじゃ気が付かなそうだ。


「セクシーですね……胸元はスペアリブで見えませんけど」


「なんだテメーは! あたしの胸がスペアリブだっていうのか?」 


「誰もそんなこと言ってませんけど……まあ、スペアリブで胸元見えないから、ある意味スペアリブだよな」


「フンッ……なかなか言うじゃねーか気にいったぜ! あたしは白魑歌しろちかだ、シロって呼んでくれて構わないぜ」


「いや……遠慮しておきます」


「フッ、照れるなよ……あたしのスペアリブ貰ってくれるかい?」


「あー、それなんだけど、もう銀髪の子にはスペアリブをあげないで欲しいんだ」


「なんでだい! あんなに昨日は喜んでいたのに! あたしのスペアリブが怖いっていうのかい?」


 なんでもスペアリブに絡めてくるな……絡めるのは調味料だけにしろよ。


「そもそもなんでスペアリブなんて配っているんだ?」


「それを訊いちゃうのかい? 話してあげてもいいけど……条件があるね」


「じゃあ、いいや」


「このスペアリブを食べておくれ、そうしたら話してあげるよ」


「いや、いらないって言ってるだろ! しかもそれ生じゃねーか!」


「なんで食べてくれないんだい!」


「お前は生で食うのかよ! それに俺は知らない人から貰った物は食べてはいけないと教育を受けているんでな」


「フンッ、お真面目さんか……まぁ、それなら仕方ないね」


 生肉食べなきゃいけないのなら、お真面目さんでいいわ……って、アレ? そもそも何しに来たんだっけ俺……


「あたしはね……昔ティッシュ配りをしていたんだよ……」


 おいおい、いきなり語り始めたぞ……結局条件とか関係ねーじゃねーか! 


「はぁ……それで?」


「……いいさ、そのうち続きを話してやるよ」


「実は続きなんてないんだろ……」


「そう思うのなら、勝手にしな……あたしはアンタには縛られないよ」


「その話はどうでも良いけれど、一ついいか?」


「なんだい? あたしに出来ることならいくらでも煮込んでみせるよ」


「何の話をしているんだ、頭スペアリブかよ……さっきも言ったが大切なことなんで二度言うぞ? 銀髪の子にスペアリブをあげるのは止めてくれ」


「なぜさ?」


「……そのうち続きを話してやるぜ!」


「!?」


「ははははははははっ! やられたね、分かったよ、中々食えない男だねー」


「食ってみろよ」


「あははははっ! スペアリブだけにかい? わかったよ、その銀髪の子にスペアリブを与えなけりゃいいんだろ?」


「そうしてくれ……俺の部屋が汚れてしまうからな」


「そういうことかい……てっきりあたしは……いや、何でもない……フフ」


 てっきりなんだよ? 何もないし……まぁ、用件は受け入れてくれたようだし、これで危険を回避出来たかな? あんなの食べた手で部屋のあちこちを触られたのでは堪らないからな……ん? 銀髪が店内から出てきたぞ。


「見ないと思ったら、お前店内にいたのか」


「集塵、良い物みつけたぞ! お弁当買って帰ろう!」


「肉じゃねーだろうな……」


「ハラミ弁当だ!」


 肉は駄目だって言ったじゃねーか……


「それにするかは別として、ねこの分も買って帰らねーとな」


「勿論だ!」


「お姉さんも足止めして悪かったな……ってアレ? いつの間にいなくなったんだ」


 ――この一件以降、スペアリブの女は俺たちの前に現れることは無かったけれど、また何処かで銀髪が右手にスペアリブを握ってくるかも知れない……その時は……。

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