第15話 けのもの

 今、俺たちの目の前には一匹の獣が二本の足でそびえ立つように、そこにいた。漆黒しっこくの毛皮を身にまとい手足には鋭利な爪が生えている。眼光は鋭く、その姿はまるでネコのようだ……多分。


「お前たち! ただで済むと思うにゃよ!」


 うーむ、また変なのが出て来たな……しかし怒るのも無理はない、俺でも、あんなことされたら怒りを抑える自信がない。


「ま、まぁ、落ち着けよ。要求はなんだ? 飯か?」


「わたっちを馬鹿にしてるのかにゃ!」


 わたっち……わたしという意味かな?


「集塵、こいつっちゃおうか?」


「こらこら」


 何を物騒な発言をしてるんだ。コイツ本当に食べてしまいそうなんだよな……とりあえずこの多分ネコが何者なのかを知りたい所ではある。


「アドレナリンがMAX状態の時に申し訳ないんだが、お前はなんで銀髪に捕まったんだ?」


「にゃ?」


「そもそも、お前気絶してただろ? なんでそこにいる銀髪の女に捕まったんだよ? という話さ」


「お……覚えて……ないにゃ」


「覚えていないんだな?」


「にゃ……にゃあ……」


「そうか……ついに本当のことを話す日がきてしまったようだのう」


「どういうことにゃ?」


 これは上手いこと、この場を収めることが出来そうだな……ちょっと昔話に出てくる老人風に演出も入れてみるか。


「実はな……お主はそこに立つ銀髪の女の子に助けられたのじゃ!」


「にゃっ! にゃんだってー!!」


「お主が道で倒れている所を、左手で両足を掴み、まるで狩られてしまった獣のようにここまで運ばれたのじゃーフォッフォッ」


「じゃ……若干気になるところがあるにゃけど、わたっちは確かに気を失ってたにゃ」


「そうじゃろ、そうじゃろ」


 そろそろ昔話の老人風な話し方は疲れてきたな……誰もツッコミいれてくれないし、自分がアホな子に思えてきて虚しくなってきた。


「つまーり! 俺たち二人はーーーーお前の恩人なんだーーーーーーーー!!」


「そ、そうだったのかにゃ……ところで何故うららぎ風にゃ?」


「お前、うららぎ知ってるのかよ?」


「あっ……なっ! なんでもないにゃ! にゃんのことにゃ!」


 無駄に焦っているところが気にはなるけど、コンビニのウサギなんてどうでもいいか……とりあえずこれで無駄な争いはしなくて済みそうだ。


「話は分かったにゃ……わたっちの恩人に失礼したにゃ……」


「分かったくれれば、それでいいんだ……だよな? 銀髪」


 あれ? 銀髪いねーじゃねーか……どこいったんだよ


「もしかして、さっきの女の子を探してるのにゃ?」


「お、おう」


「それなら、お前の後ろにあるドアに入っていったにゃ」


 部屋に戻ったのかよ……相変わらず自分勝手な奴だな……それならこの怪しい多分ネコには、もう用はない。


「じゃあな」


「にゃ!?」


「なんだよ? 何か用でもあるのか?」


「わ、わたっちのこと……気にならないのにゃ?」


「なんで?」


「にゃ、にゃんで倒れていたのにゃ? 病気じゃないかにゃ? とかにゃ」


「興味ないし、あれだけ回転して戦闘意欲があったら病気でもないだろ、早く家に帰れよ……じゃあな」


「にゃー!! まつにゃーー! にゃぎゃっ!!」


 なにか叫び声のあとに変な鳴き声がした気がしたけど聞こえないふりをした方が良さそうだ……俺は気にせずドアを閉め……あれ? 閉まらないな……何か挟まっ……


「あー!! なんでお前、ドアに挟まってるんだよ!!」


「ま、まって、くれ……にゃ」


「その必死さが、こえーよ」


 たくっ! 仕方ねーな……とりあえず部屋に入れてやるか……何か事情もありそうだし暇潰しくらいにはなるだろ。


「大丈夫か? まあ、上がれよ」


「か、かたじけないにゃ」


「侍かよ……」

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