第14話 多分ネコ
いつのまにか眠ってしまっていたようだ。床板の硬さで背中が痛いし、決して目覚めの良い朝では無かった。
おまけに五十嵐さんも銀髪も部屋には居なくて俺だけ置いてきぼり……まあ、俺の部屋だから、そのまま残されるのは当たり前といえば、そうなのだが。
「あんなに仲良くカルビ炭火焼き弁当を食べたというのに……炭火焼きカルビだったか?」
テーブルの上には弁当の空箱だけが残っている状態だ。一箱だけお新香がポツンと残っている。
「誰だ、お新香残してるのは……この位置に座っていたのは、たしか銀髪か? へー、何でも食いそうなのに苦手なものあるんだな」
そういや、五十嵐さんは部屋にでも戻っているのだろうけど、銀髪は何処に行ったんだ?
まぁ、このまま戻って来なくても特に問題はないが、出来れば弁当代を返してから去って欲しかったな。
「残ったお新香が気になるなー、とはいえ食べるのも抵抗がある」
うーむ……捨てるべきか、それとも……
ガンガンッ! ガコッ! ガンガンッ!!
「なんだなんだ、やけに騒がしいなー、誰だよ玄関ドアに打撃与えているアホは……壊す気かよ」
俺は打撃音の鳴り響く玄関へと向かった。新手の新聞屋にしては強引すぎるし、五十嵐さんとはリズムも違う……となると身近で思いつくのはアイツしかいないよな。
このままではドアを破壊されそうだし、仕方ないから開けてやるか……俺はゆっくりとドアノブに手をかけた。
「ん? おいおい、カギあいてるじゃねーか」
冷静に考えたら二人とも俺の部屋の鍵なんて持っているわけがない。
そりゃ、鍵なんて掛かっているわけがないよな……とはいえ都会で鍵を開けたまま寝ていたことを想像すると恐ろしい。
とりあえず外からの打撃は止みそうにないし、さっさとドアを開けるとするか……
「遅いぞ集塵っ!!」
「やっぱりお前か……鍵掛けてないんだから普通に入ってこいよ」
……結局、未だコイツの素性は分からないままなんだよな。
「
「五月蝿いのはお前で良いんだよ……ん?」
両手が塞がっているというので銀髪を確認して見ると左手には黒い四足歩行らしき生き物、右手には……なんだあれ? 何か肉片ぽいような?
「おい銀髪、その右手に持っているのは何だ?」
「わからん……だが食い物らしい」
「よく見せてみろ」
銀髪は、その怪しい肉片らしき物を俺が確認出来る高さまで右手を上げてみせた。
なんだこれは……何処かで見たことあるぞ? ん? まてよ……
「スペアリブじゃねーか……調理されてはいるようだな? どこで拾ってきたんだよ、こんなもの」
「道で女に渡されたのだ」
「そんな奴いねーだろ……いるなら、その女やばいわ!」
「ほんとだもん!」
……知らない人から食べ物を貰うなよ。
「で? その左手に握っている生物は何なんだ?」
俺が左手の話にシフトすると銀髪はニカッと歯茎が見える勢いの笑顔をして見せた。
「凄いだろ! 道に落ちてたから拾ったんだ」
銀髪は、さっきのスペアリブと同じように俺が確認しやすい高さまで、その生物の後ろ足を握った左手を上げて見せた。
「ネコかな? 多分ネコだ」
ネコってこんなに長かったっけ? 遠目にはネコに見えたが、うーん……それにしてもぐったりしていてピクリともしないな。
まさか魂抜けタイプじゃねーだろうな……勘弁してくれよ。
「こいつがネコかー!! 聞いたことあるぞ!」
「多分な……多分ネコだ。おまえコンビニは知っている癖にネコは知らないんだな?」
「集塵、こいつふわふわしてるし、外も中も使い道ありそうだぞ」
「さらっと怖いこと言ってんじゃねーよ、外も中も使い道なんてないし、あっても使うな」
「チッ!」
チッ、じゃねーよ……とりあえず確認をしておくか? うわー面倒くせーなー、とはいえ万が一の時は何処かに埋めてやらないと可哀想だし。
「銀髪、ちょっとそいつ貸してくれ」
「やらないぞ」
「いらねーよ! 少し様子を見るだけだ、ほら貸してくれ」
「……やだ!」
「なんでだよ……少し見るだけだって」
「いやなの! これはわたしのなの!」
なんだこいつ、本当面倒くせーな……
「いいから寄越せ!」
俺はイライラして強引に多分ネコであろうそれを奪い取ろうと手を伸ばすと、銀髪は素早く後ろに飛びすさり、多分ネコをビュンビュンと回し始めた。
「やだーーーー!!」
「おわっ! おまえっ! やめろ! なに回してんだーーーー!」
ビュンビュンビュンビュン! と空を切る音が鳴り響く。
「ヤダヤダヤダヤダ!」
マ、マズイ……このままではっ!
「やめろ! そいつが召されてしまう! やめるんだ!」
「にゃぎゃーーーーーー!!」
俺が止めに入ろうとした瞬間、物凄い雄叫びとともに、その多分ネコかもしれない存在は激しく暴れ出した。
その激しい動きに耐えきれなくなったのだろう。銀髪は手を離してしまった。
「あぶない!」
銀髪の手から逃れた多分ネコは激しく横回転をすると、マンションの共用スペースである地面に上手く着地をして見せた。
「良かった……無事のようだな」
まるで人のように二本の足で地面に立つ多分ネコは、眼光鋭く俺たちを睨みつけると、数秒してからゆっくりと口を開き始めた。
「なにをするにゃーー!! 危うく召されるとこだったにゃーー!!」
多分ネコじゃねーな……。
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