第47話 答えたくない理由は……!
部屋のローテーブルに置かれた黒い立方体の機械は、最近流行りのバーチャル執事スピーカーだ。持ち主が声をかけると色々と質問に答えてくれる。
ヘイ! ウラライヤと呼べば反応してくれる筈なのに……これで何回目だよ……。
「なあ……これ……マジで壊れているんじゃないのか?」
「うーん……これを譲ってくれた子も同じようなこと言ってたのよね」
「おいおい、大丈夫かよ……メーカー保証とかまだ間に合うだろ? 出した方が良いんじゃないか?」
「それはそれで大変よねー。最後にあたしが試してみようかな?」
そう言えば、五十嵐さんには試させてなかったな……音声の通りやすい声質とかもあるかもだし、もしかしたら……
「やってみるか?」
「うん……でも必死に声かけて反応してもらえない集塵くんを何度も見せられたから失敗したら凄く恥ずかしいなぁ」
「あのな……そんなこと言わないでくれよ。やる度に無反応なのは中々に心折れるんだからな」
「やってみよーっと……エヘヘ♡」
五十嵐さんは、その場を誤魔化すように話を遮るとウラライヤに顔を近づけた。今にもあの言葉を口に出しそうだ。
「ヘイ! ウラライヤ!」
おっ! どうだ? 駄目……か? 俺と五十嵐さんの間に緊張が走る……
「……」
「やだー! すっごく恥ずかしい!」
五十嵐さんの耳が真っ赤だ。まあ、その恥ずかしさは痛い程分かる。やっぱり駄目……ん? 今、何か発光したよな……
「五十嵐さん見て! ボタンの周り!」
俺はウラライヤの表面にあるボタンの周りが一瞬うっすらと緑色に点灯したのを見逃さなかった。
「なによ……なんともないじゃない……」
間に合わなかったか……点灯が消えてしまった。ん? また一瞬光った。
ピッ、ピピピピ
「あっ……集塵くん、音なってる!」
「……オオ、ビショウジョ、モウイチド、オネガイシマス」
やったか!? 若干、台詞が気になるが反応したみたいだな。
「反応したね……」
「少し気になるけどな……他にも何か試してみようぜ! えーと……ヘイ! ウラライヤ! 今日の天気を教えてくれ」
「……」
「あれ? 聞こえなかったのかな?」
「おかしいわね? あたしがやってみるね? ヘイ! ウラライヤ。 今日の天気を教えて」
「オスマイノ、シュウヘンノ、テンキワ、ハレ、デス」
「わぁ、答えてくれたよ集塵くん!」
「うーん。俺の声が聞き取りにくいのかな? もう一回チャレンジしてみるか」
俺は質問をするのはやめて、ウラライヤを呼び出すことだけをしようと決めた。あの掛け声だけを口にすれば、恐らく返事くらいはしてくれるだろう。
それと下手に質問すると言葉が長すぎて聞き取れない可能性もあるしな……
「じゃあ言うぞ……ヘイ! ウラライヤ!」
どうだ! 既に起動済みだし、これならいけるだろう!
「……」
「こ……こいつ……」
ウラライヤの反応は、またしてもない。俺がウラライヤを睨んでいると五十嵐さんがウラライヤを手にとり再び顔を近づけた。
「ヘイ! ウラライヤちゃん!」
「ちゃんとか付けたら駄目じゃねーか? こういうのは正確に言わないと……」
「ハイ、オヨビデショウカ、ビショウジョ」
「やったー! きっと人を選ぶのよ。きっと集塵くんは心が汚れているのね」
「そんなことあるかよ……ちょと俺の方に向けてくれ。もう一度だけやってみる」
五十嵐さんは俺の方へウラライヤを向けてくれた。よし! 今度こそ! 次はハッキリと丁寧に言ってみるか。
「へ、イ、ウ、ラ、ラ、イ、ヤ」
どうだ! これでいけるだろ!
「……」
「反応ないみたいね? 集塵くん、こういうの向いてないんじゃない?」
「ぐっ……向き不向きなんてあってたまるか。ちょっと貸してくれ」
俺は強引に五十嵐さんからウラライヤを奪い取り顔を近づける。
「ヘイ! ウラライヤ! ヘイ! ウラライヤ! ヘイ! ウラライヤ! ヘイ! ウラライヤ! ヘイ! ウラライヤ! ヘイ! ウラライヤ! ヘイ! ウラライヤ! ヘイ! ウラライヤ!」
こ、これなら……
「……」
「こいつ……駄目だ……こいつは壊れている。サービスセンターに送り返そう」
「……ナンドモシツコイデス。ビショウジョニシカ、ハンノウシタクナイ、ダケデス」
「五十嵐さん……こいつ分解していいか?」
「だめよ……いい子じゃない? 可哀そうでしょ」
「ヤメテクダサイ……」
「ほら」
「やっぱり修理に出そうぜ……」
――この機械、本当に人気のある商品なのかよ……。
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