第125話 約束だからな!
モウツαの部屋を飛び出した俺は共用通路を駆け抜けエレベーターに乗り込んだ。
銀髪はどうしているだろうか……ちゃんと部屋に戻っているだろうか? 無事でいてくれたら良いけど……心配だ。
「あ……もう一階に着いたのか」
俺は足早に奥にある自分の部屋へと向かい、ドアノブに手を伸ばした。
「遅くなってごめん。銀髪っ! いるか?」
「……」
反応がないな?
「集塵くん、お帰りなさい。随分と遅かったね?」
俺の帰宅の声が届いたのか五十嵐さんが奥から顔を出してきた。
「まぁ、何て言うか色々と難しい話になってしまってさ。ところで銀髪は? 戻ってるだろ?」
「え? 銀髪ちゃん戻って来てないよ? 一緒じゃ無かったの?」
「え……」
戻っていないだと……どういうことだ? 俺は部屋に戻っていろと言ったのに……銀髪の奴、町に出たのか……。
「まずい……」
「どうしたの? 何か食べ物で揉めたりした?」
そんな理由なら、どんなに良かったことか……町に出たとなると、探すのが厄介だぞ。五十嵐さんやヨドラ文鳥にも協力してもらった方がいいかもしれない。
「ヨドラ文鳥いるかー! 悪いが玄関まで来てくれ!」
「うわっ! びっくりした! 突然大声出さないでよ」
「悪いわるい、緊急事態なんだ」
「?」
「うっるせーな! なんの用だよ?」
……バタバタという羽音を出しながらヨドラ文鳥が飛んで来た。良かった! 居るみたいだ。
「きゃ! なんで、あたしの頭に留まるのよ!」
「うるせースケだな。細かいことを気にするんじゃねーよ!」
「むー! で? 集塵くん、緊急事態ってなに?」
「お? なんだ? 事件ですか? 事故ですか? ってやつかよ」
「そういう類いのものじゃないが……それらに発展しなくもない」
「ほー。早く話せよ」
「実は、銀髪が居なくなったんだ……此処に居ないとなると、町に出たことになる。流石に俺一人だと見つけるのに時間が掛かってしまう。協力してくれないか?」
「何処か、ほっつき歩いているだけじゃねーのか? ほっときゃ、戻ってくるだろう。子供じゃあるまいし……」
「あら? 銀髪ちゃんは子供でしょ?」
「あー……そうか……そうかもな――」
「心配なのは分かるけど、そんなに急がないと駄目なものなの?」
そうか……銀髪の身体がピンチなことを五十嵐さんたちは知らないんだよな……とはいえタイツの説明をしている時間なんてない。心苦しいが少しフェイクを入れるか……。
「いや、それがあいつ途中から気分悪くなったみたいでさ……なんか顔色が良くなかったんだよ。それで部屋に戻っていろと言ったんだが……」
「そんなに体調悪いのに町に出たの? 変じゃない?」
うーん。無理があったか……なんて説明したら……。
「……集塵くん、分かった。とにかく銀髪ちゃんを見つけたらいいのね?」
五十嵐さん……察してくれたんだな……。
「ありがとう……」
「え!? あ、うん……それじゃあ急ぎましょ! ヨドラ文鳥も手伝うのよ! あなた空飛べる分、有利なんだから」
「まじかよーー! 面倒だなーー! まぁ、なんか事情があるみてーだし、手伝ってやるか」
「ヨドラ文鳥……サンキュな……」
「ケッ!」
「よし! そうと決まれば手分けして探そう。俺はうさぎのらびっとの方へ行ってみる! 五十嵐さんは白倉駅の方を頼むよ」
「オレサマはどうしたらいいんだ?」
「空から町全体を探してくれ!」
「なんだかオレサマが一番大変な気がするぜ……」
「戻ったら何かうまいものでも奢るよ」
「お! 本当だな? 約束だからな!」
「おう! それじゃあ急ごう!」
俺たちは早速玄関ドアを開けて外に出た。
「ねぇ……集塵くん……傘も必要ね」
「う、うん……」
「オレサマ……留守番でもいいか?」
――玄関を出た俺たちの目には細く長い、糸のような雨が映り込んでいた……。
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