俺は堀江がキライだ!? ~ある日コインランドリーで出会った謎の銀髪少女と後輩JK美少女との関係を堀江という名が俺を振り回す。俺はまともに恋が出来るのか?

かねさわ巧

第1話 すぺくたくるなであい?

 ぐるん! ぐるん! ぐるん!


 俺が目にした光景は何とも異様な物だった。お気に入りのシャツやパンツに交じって乾燥機の中に人らしきものが回り続けている。


「いつの間に入り込んだんだ……勘弁してくれよおい」


 よく目を凝らして観察してみると、やはり人で間違いないようだ……何も身につけていないようにも見える。


 うーん。洗濯物が邪魔をして性別は判断出来ないが……仮に全裸だとしても一緒に宙を舞っている俺の衣服で隠してやれば、最悪おぞましい物は見なくても済むだろう。


「どうすんだこれ……服もう乾いてるかな?」


 コインランドリーの乾燥が終了するまで、あと五分はある。それなら止めても問題ないかもしれない。俺は溜息を洩らすと蓋をあける決意をして取手に手を伸ばした。


 ――ガチャ


 乾燥機の動きが止まり、回っていた洗濯物が人らしきそれと一緒に静止する。


 このままでは確認が出来ないので洗濯物を一枚ずつどかしていくと、そこには銀色に輝く……いや、訂正しよう……輝いてはいないけれど銀色の髪をした少女の姿が現れた。


「ふむ、あだ名は銀髪だな」


 銀髪は中で回されていた時よりも気のせいか少しだけ大きく感じる。目を回して気絶でもしているのかピクリとも動かない。俺は、そうっと彼女の頬に触れようと指先を伸ばしてみる。


 ぷにっとした感触は、まるでマシュマロのように柔らかくて指先がどこまで沈み込むか試したくなってしまいグリグリとドリルのように攻撃を続けた。


 ムニュムニュ


「……」


 ムニュムニュムニュ


「……」


 ムニュムニュムニュムニュッ


「うきゅーー!!」


 ドリル攻撃に耐え切れなくなったのか、さっきまでピクリともしなかった癖に、まぶたをパッとひらくと突然奇声を発し、中から飛び出してきた。


「うぉっ! あぶなっ!」


 危うくぶつかる所だったじゃないか……ただでさえ異様な光景なのに文化祭で作られた陳腐なお化け屋敷かよ……心臓に悪すぎる。


 俺が驚いている間に銀髪は空中で縦回転を繰り返し、腰まであるロングな髪をふわりと舞わせて地面に着地した。


「ちっさ!」


 目の前に立つ銀髪が、あまりの小ささに思わず声が出てしまった。見たところ身長は百二十くらいだろうか? 百七十五の俺から見ると、かなり小さく見える。


 それにしても、さっきまでは暗くて分からなかったが二重のくりくりした目が中々に可愛らしいじゃないか。だが……


「可愛いのに全身タイツとは……」


 あくまで俺の主観だがクラスで二番目という感じだ。透き通るような青い瞳が美しく印象的だというのに、首から下が健康的なうすだいだい色をしたタイツのせいで変態に見えてしまう。


 折角色白の肌なのに頭部と指先以外が隠れているのも残念極まりない。


「おい、おまえっ! 今わたしのことを、物凄くいやらしい目でみていたなっ!」


「なっ!」


 なんだこいつは……品定めをしている最中に何を言い出すかと思ったら、人様に指を差した上におまえ呼ばわりとは……こいつには関わるなと俺の第六感が細胞レベルで働き始めてしまった。


「そんなことより何で俺の洗濯物に紛れてんだ。新手の下着泥棒か?」


「だれがおまえのような庶民の下着なんて欲しがるか! 貴様こそ、わたしのことをさらおうとしていたのではないか?」


 乾燥機に紛れていただけでも不審者なのに、こいつ頭大丈夫か? 明らかに、これ以上関わっては駄目な奴だ。


「 大体そんなけしからん格好……俺が善良な成人男性だったから良かったものの、ロリコンおじさんだったらどうなっていたと思っているんだ」


「お前……初対面のレディの身なりに文句をつけるとは随分と失礼な男だな」


「……」


 そう言われると反論しにくいが、お互い様だろう……これは早々に洗濯物を詰めて逃げる準備をした方が良さそうだ。


 このままでは、いらぬ濡れ衣を着せられて人生終了させられそうだし、まともな会話のキャッチボールが出来るとは思えない。


「俺はお前に構っているほど暇じゃないんだよ……ジュースでも奢ってやるから、それ飲んで適当に一人で遊んでろ」


 たしかランドリーを利用する為に崩した小銭が余っていたはず……ポケットを探ってみると百円玉が三枚確認できた。


 もう一枚あった気もするが、とりあえず二枚で足りるだろう。


「ほら、これをやるからさっさと何処かに消えてくれ……釣りは返さなくていいぞ? 感謝しろ」


「なんだこれは?」


「なにって……見ての通り百円玉なわけだが……」


「うまいのか?」


「おまえには、そう見えるのか? よく見ろ、ほら」


「うわっ! それ以上、その怪しい物体を近づけるな!」


 さっきから本当に失礼な奴だな。銀髪は嫌そうな顔をしながらも俺の差し出した二百円を、チラチラと見ている……気にはなるようだな。


 うーん……まさかとは思うが百円玉を知らないのか? カードしか使ったことがないお嬢様かよ。


「おまえ、本当にこれが何か知らないのか?」


「しらんな……喰えるのか?」


「食ってみろよ……」


「喰えるんだな?」


 銀髪は手の平にある硬貨を今にも折れそうなくらいの細指で摘み上げると、まるでポップコーンでも食べるかのように躊躇ちゅうちょなく口の中へと放り込んだ。


「なっ……お前っ! こらっ、返せ!」


 こいつっ! 食べやがった……さっきまでの嫌がりようは何だったんだよっ!


 俺の厚意を無駄にしやがって! ジュースだよ! ジュース代だよ! このままでは、飲み込まれた硬貨が無駄に人体の旅路を通ってWCで流されてしまう。


 そうなったら救出は不可能になってしまうじゃないか……。


「こらっ! だせ!」


 銀髪が必死に抵抗する中、口の中に無理やり手をつっこみ取り戻そうとしたが、どこにも見当たらない。


「おまえ……本当に食ったのか?」


「喰うわけなかろう。ほれ」


「ん?」


 銀髪は自身の頭上を指差すと、そこには俺の百円玉が鈍く光っていた。


「俺の百円なのか? 間違いなく食ってたよな……おまえマジックとか使えるアレな人? 百円ショップの手品グッズなら買ったことあるぜ! あれ安いのに良く出来ているんだよ」


「何を意味の分からんことを言っている。貴様が返せと五月蠅うるさいから戻してやったのだ。感謝しろ」


 よくわからんが、とりあえず回収させて貰おう……俺は銀髪の頭上に乗った百円玉をそっと摘まみあげる。


「な、なんかちょっと湿ってないか……」


 だが、間違いなくオレの百円玉だ。油性ペンで小さくこうと名前が書いてあるからな……。


 しかし驚いた……百円ショップで売っているものとは違って本格的なマジックだったのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。


「フッ……どこで覚えたのか知らないが、くだらん。もうお遊びはここまでだぜ」


 子供の遊びに付き合ってやるほど、そんな暇人でもないからな。グッバイ全身タイツの銀髪少女。もう二度とお前に会うこともないだろう。


 俺は用意していた紙袋に生乾きの洗濯物を詰めると出口へと向かった。


「じゃあな」


「まって!」


 気のせいか、さっきまでとは違い随分と可愛らしい声が俺の左右の耳に突入してきた。


 正直これ以上関わりたくはないのだが、こんなに可愛い声を聞かされては俺の性格上つい振り返ってしまいたくなる。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


「うぉ! なっ、なんでおまえ泣いてんだーー!」


 振り向くと銀髪は大声で泣きわめき始めた。目からは大粒の涙がこぼれて鼻水も垂れ流し状態だ。


 これは……やっちまったか。誰にも見られていないよな? どうする……このまま見捨てて逃げるか、とどまるべきか……し、仕方ねーなぁ……。


「えーとなんだ……どうしたんだ?」


「ぐすぐす」


 ……下手な芝居の泣き真似みたくなってるじゃねーか。もう少し上手く出来ないのかよ。


「お前……嘘泣きだろ?」


 チラッ


「ぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐすぐす」


 チラッ


 嘘泣きだな……間違いない。


「で? いつまでそれ続けるつもりなんだ?」


 銀髪は俺を睨みつけ懲りずに嘘泣きを繰り返す……やはり見捨てるのが正解だったか。


「おまえなぁ、いったい何がしたいんだよ?」


「……」


 そう問いかけると銀髪のぐすぐすは止まったが、それ以降の反応がない。


 ――お互いに見つめたまま無駄に時間が流れていく。


 これは下手なアクションを起こせる空気じゃないな……。


 先に動いたら負けというシチュエーションを何かのアニメやドラマで観るけど、これがそれなのか? そうなのか? 俺が選択するべきことはなんだ……洗濯していた俺がなぜ選択を迫られているんだ。たすけて誰か。


 その時、突然背後から聞き慣れた美声が耳に届いた。


「あれー?? 集塵しゅじんくんだ」


 声のする方向に顔を向けると、そこには超絶美少女が不適な笑みで立っていた。

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