第10話 三三七拍子
「……そして次がスモール機能だ。これを使えば集塵だって小動物のように小さくなれる」
「すげーなこのタイツ、別になりたくないけど」
銀髪が部屋に現れてから数時間が経ち、この場所で一緒に生活していたかのような錯覚すら覚えてしまうほど俺はコイツの存在に慣れてきてしまっていた。
凄い機能とやらを備えた全身タイツの話を淡々と聞かされたが正直あまり使い道がなさそうではある……面白いけど。
ぎゅう〜〜
ん? なんか嫌な予感のする音が……
「集塵、お腹すいた」
……予感的中!
「ん? ああーそうか、もう夕方だもんな」
そういや銀髪に、ほとんどクロワッサンを食べられてしまって昼は一個だけ腹に入れた程度だったし俺もお腹が空いてきた……昼間の件を思い出すとコイツが憎らしく思えてくるな。
「コンビニにでも行って何か買ってくるか」
「コンビニかー! わたしも行きたいぞ」
「お前コンビニ知ってるんだな?」
「コンビニ大好きだ!」
「それは良かったな……」
やっぱコイツの分も買ってやらないと駄目だよな……仕方ねーな、来月から描く枚数増やしていくか……駆け出しのイラストレーターの俺は単価が安いから枚数で稼ぐしか方法はないからな。
「じゃあ一緒にコンビニいくか?」
銀髪はコクンと軽く頷くと、その全身タイツ姿で玄関に向かって……!?
「ちょっとまて銀髪」
「?」
「やはり、お前をつれていくわけには、いかない」
「え? なんで!」
「その格好で街中を歩くのは不味い」
「大丈夫だ、これは特殊タイツだから!」
何が大丈夫なのかは知らないが、やはり連れて行くわけには、いかない。五十嵐さんも遠くからみたら裸に見えると言っていたしな。即通報されかねない……とはいえ白シャツ一枚も、まぁまぁヤバい気がする。
「うーん、どうしたものか」
――ドンドンドン! ドンドンドン! ドンドンドンドンドンドンドン!
銀髪の格好をどうするか頭を悩ましていると玄関からドアを叩く音がしてきた。この叩き方……五十嵐さんか!? 相変わらず
俺は銀髪の頭を急に叩きたくなったので軽くポンっとしてから玄関へと向かい、外にいるであろう人物を確認することなくドアを開けた。それが五十嵐さんであることを確信していたからだ。
「やあ、五十嵐さん。俺が部屋にいること良くわかったね」
「誰かさんがアホみたいにスキップしながらマンションの中に入っていくのをベランダからみていたわよ、ああいうの恥ずかしいから止めてくれない?」
「自分だってジュース買いにスキップしてたじゃないか」
「一緒にしないでよ!」
「いや、一緒だろ……」
「こら、集塵! なんでわたしの頭を叩いたーーー!」
ペタペタと不穏な気配が近づいてきたと思ったら、なんでこっちに来たんだよ……少しは大人しく出来ないのか。俺と五十嵐さんの時間を邪魔しないでくれ頼むから。
「え? 銀髪ちゃん!? 見つかったの?」
「いや、見つかったというか何というか……ところで何か用?」
「あ、いいの。もう用事は済んだから」
「なんじゃそりゃ」
「銀髪ちゃんと何してたのよ?」
「何してたと言われると返事に困るんだけど、未来のオモチャで遊んでた」
「なによそれ……」
「集塵! おもちゃというのは、まさかSPTのことではないだろうな?」
銀髪は何が気にくわないのかムスっとした表情をして俺を睨んでいる。ほんとこの二人は睨むの好きだな……もしかして流行ってる?
「集塵くん、SPTって何?」
「さっきの女だな? 興味あるのか? SPTは、S(super)P(power)T(tights)の略で、このぉもんーーーんーーーんーーー!!」
思わず反射的に銀髪の口を塞いでしまったが、今ここで全身タイツの話なんてされようものなら、いつまでかかるか分かったものじゃない。それに、この地球上に存在しないような物を
五十嵐さん、ベラベラ話してしまいそうだし……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます