第120話 さようなら
俺は、うららぎと一緒に五階に住むモウツαの元へ行くことを決意した……。
もっとも、少し前に行っているはずだから、再度というところだ。それにしても銀髪の奴、突然一緒に行くなんて言い出したけど、一体どうしたんだ?
まぁ、怪しい飲み物を飲ませるような奴らだからな……心配なのは分かるが、俺としては銀髪をそんなところにつれて行きたくはない。
今にして思えば緊急時とはいえ、銀髪をモウツαの元へ預けたのは失敗だったかもしれない……うん……やっぱり銀髪は連れてはいけないな。
「集塵、わたしは一緒にいくぞ」
「忘れてた……お前、また読んだな?」
「わたしなら大丈夫。それに……」
「それに? なんだよ」
銀髪は突然口を閉ざしてしまった……。
気にはなるけど、追求するのはやめておくか……無理に話させるのも良くないだろうしな。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして」
また、読まれた……今まで、あまり気にはしていなかったが冷静に考えると、心を読まれるのって物凄くやりずらいな……あれ? 何か大切な約束を忘れているような……何だっけ?
「あのーー! そろそろーー! いいですかーー!」
「「あ……」」
銀髪と俺の声が被った。うららぎの存在を銀髪も忘れていたのかもしれない。
……そういや、うららぎを待たせていたんだっけ。
「待たせて悪かったよ。早速行こう……と言いたいところだけど、銀髪も一緒に連れて言っていいかな?」
「はいーー? うーーん。どうですかーーねーーうーーん」
唸り声を出すほど悩むことかな? ……これは駄目かも知れないな。
「ちょっとーーまってくださーーい。今ーー確認とってーーみますーー!」
うららぎはそう言うと頭部の耳を外し、それを耳にあてた。あの耳外れるのか……。
「もしもし? はい、うららぎだよ。うん。あのね、銀髪の子も連れて行っていいですかって、そうです。ハイ! ふむふむ……え? 大丈夫なんですか? はい、はい、わかりました」
あの耳、電話だったのか……しかも普通に話してるじゃねーか……やっぱりいつもの変な話し方は、わざとかよ……。
「お待たせしましたーー! その子も連れてきて大丈夫でーーす!」
「いいんだ? それより話し方だけど俺と話す時も今みたいに普通にしてくれよ」
「はい? 言っているーー意味ーー! わかりませーーん!」
「お前が今握っている耳を別のところに刺してやってもいいんだぞ?」
「暴力反対でーーす」
なんかイライラする奴だなぁ……まぁ、いいや……さっさとモウツαに会いにいこう。
「じゃあ、行こうぜ」
「はいーーーー! いきましょうーー!」
――エレベーターで五階にたどり着いた俺たちは共用通路を歩きモウツαの部屋を目指す。それにしても何回見ても、ここから見る景色は綺麗だな……俺もそのうち上階に住みたいぜ。
「そういえばーー銀髪さん?」
ん? うららぎが銀髪に話しかけてるな……どうしたんだ?
「なんだ? うさぎ」
「うん。ちょっと失礼しますねーー!」
「え?」
その瞬間、俺の目にはあり得ない光景が飛び込んできた……。
「さようならーー! またねーー!」
「きゃーーーー!」
「銀髪っーーーー!」
――うららぎは突然、銀髪を抱え上げると五階の共用通路の外側に投げ落とした……。
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