第12話 うららぎです!

 外はもう陽が落ち掛けていて、街頭の灯りがアスファルトを照らしている。マンションを出た俺たちが目指しているのは、今日オープンしたばかりのコンビニエンスストアで、いつも通っているコンビニよりは少し遠くにあるのだけど、折角三人で出掛けるのだから新しい方を選ぶことにした。


「銀髪、帰ったらそのタイツは玄関で脱ぐんだぞ! 分かったな!」


「そんな恥ずかしいこと出来るわけないだろ! 汚れるのが嫌ならソックスを用意しろ」


「そしたらソックスが汚れるじゃねーか」


「ていうか何で銀髪ちゃん靴履いてないの?」


「そんな低機能の物なんて履けるか、心配しなくても足裏まで保護されている」


 なにを偉そうに言ってるんだか……わけの分からん機能よりクリーニング機能つけろよな。


「あるぞ?」


「あるのかよ! なんで使わねーんだよ!」


「使い方が分からん」


「帰るまでに思い出せよな」


「なんの話してるのよ……あっ! あれじゃない?」


 五十嵐さんが指をさした先には俺たちが求めたコンビニらしきものが開店祝いの花に囲まれている。えーと店名なんだったかな? とりあえずウサギのマークの看板は見えている。まさかペットショップじゃねーだろうな……


「えーと、うさぎのらびっと? まるで頭痛が痛いみたいな店名だな」


「集塵くん、本当に新しくコンビニがオープンしたんでしょうね? どう見てもペットショップなんだけど」


「おかしいなーコンビニってネットに書いてあったぜ?」


「ふーん、なんか店名変よね? あれだと、うさぎうさぎじゃない? うさぎのラパンとか洒落た感じに出来なかったのかしら」


「いやそれ、たいして変わってないから」


「集塵! 早く入ろう、お腹すいた!」


 銀髪に手首を握られた俺は、このよく分からん店内に引きずられるように入った。


 ぴぽぴぽぴぽん〜


 店内に入ると入店音のあとにジャズ調のBGMが聴こえてきた。落ち着いた雰囲気をかもし出しているけれど、なんだかコンビニというよりはカフェみたいだ。


 心配していた品揃いは、どうやらコンビニで間違いないようだな。衛生用品や雑誌、お菓子もあるし奥の方にはお弁当コーナーも確認出来る……って、なんだありゃ?


 店内に気を取られて気が付かなかったがレジカウンターに怪しいウサギの着ぐるみが立っているぞ……全身ピンクなのも気になる。遊園地などであれば、そのカラーも親しみを感じてくるがレジカウンターに立っていると不思議と不気味だ。


「集塵くん……なにあれ? やばくない?」


「同感だ……正直、これ以上前に進みたくないよな」


 俺たちが入り口で立ち止まっているとピンクのウサギの頭部が突然くるっと90度回転して、こちらを向いた。


「うわっ、こっち見たよ集塵くん」


「いらっしゃいませーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


「「ヒッ!!」」


「「こっわ!!」」


 突然のウサギの叫びに俺と五十嵐さんは思わず驚きの声が被ってしまった。何なんだよ、あのウサギ、こえーよ! 銀髪なんて……


「わぉーなにこれ、滅茶苦茶うまそうだな!!」


 何事もなかったように弁当選んでやがるな……仕方ない、若干レジのウサギが気にはなるけど、さっさと適当に買い物して外に出るか。


「え? 買い物していくの?」


「銀髪は買う気満々みたいだしな、さくっと買って帰ろうぜ」


「あたしレジには近づかないからね」


「おっけー! グーググ!」


 あのウサギ微動だにしない所が、また怪しいんだよな……そもそも、なんで着ぐるみなんだよ、開店サービスのつもりなのか? とりあえず正面は避けて銀髪のところまで向かうとするか……弁当コーナーレジの横だけどな。


「お客さーまーーーーーーーーーーーーわたくしの名前は、うららぎでーーーーす!」


 なんだなんだ!? 自己紹介を始めたぞ……やべーやばすぎる!


「集塵くん、怖いよー」


 脅かすんじゃねーよ……五十嵐さん、震えてるじゃねーか!!

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