第84話 銀髪のいない部屋
モウツαから預かっているヘッドホンは俺が装着しても反応しないどころかハウジング部分の液晶が赤く点滅を繰り返してエラーの文字が表示される始末だ……まぁ、別に使えなくても困らないけど。
「肩ちゃん……これだけど、恐らく登録している本人しか使えない仕様なんじゃないかな?」
「もしかして私が登録されているということですか?」
「うん。ほら、最初これを受け取る前にモウツαくんが肩ちゃんの名前を確認してたじゃないか」
「あ! そう言えば、そうですね。液晶画面触ってました」
「うん。だから、これは肩ちゃんに」
俺が持っていても意味ないもんな……体験出来なくて少し残念だけど。
持ち主を判別したのか俺の手から肩ちゃんに渡った瞬間、さっきまでの点滅が治まる。ここからじゃよく見えないけれど恐らくエラー表示も消えているのだろう。
さてと……このまま此処に居ても仕方ないし部屋に戻るか……あまり遅いと五十嵐さんも心配するだろうし。
「肩ちゃん。そろそろ戻ろうか?」
「え? あ、はい。そうですね」
モウツα……マジ頼んだからな……。
俺と肩ちゃんは五階を後にした。
――玄関ドアを開けた瞬間、五十嵐さんが心配で駆け寄ってくることを想像していたのだが、人の気配を感じない……。
「やけに静かだな……」
「いつもが賑やか過ぎるんじゃないですか?」
「まぁ、それは否定できない……」
俺たちは、作業場兼生活スペースの皆んなが集まるいつもの部屋に入る。
「あれ? 五十嵐さん居ないな……」
「あ……集塵さん奥の部屋に」
「ん?」
声の方へ視線を向けると、奥の寝室でねこと仲良く寝ている五十嵐さんの姿があった。
「ねこの側にいて眠くなっちゃったのかな?」
「起こしましょうか?」
「いや……寝かせておいてあげよう。いずれにせよ銀髪を診て貰っている間は待っていることしか出来ないしな」
「そうですねぇ……そういえばお腹空きませんか?」
「あ……言われてみれば……もういい時間だね」
「私もお弁当ほとんど食べていませんし、残り温めて食べようかな?」
「そうか……早食い競争やってたものな」
「集塵さんがすぐに温めてくれないから負けちゃったんですよ」
「いや……俺は関係ないから」
確かに俺も腹が空いてきた……銀髪がいつ戻ってこれるかも分からないし、今のうちに腹ごしらえをしておくか……冷蔵庫まだ何かあったかなぁ……。
俺は冷蔵庫の中を確認すると、中は調味料だらけで特に食べれそうなものを見つけることは出来なかった。これは困ったぞ……五十嵐さんやねこも、目が覚めたらお腹空かしてくるだろうし……うーん。
「どうしたんですか?」
「いや……もう食べ物ないんだわ……買いに出るか……出前でも頼むか……」
「え! 出前とかずるいです! 私もそっちの方がいいです!」
「いやいや、肩ちゃん目の前のカルビがあるでしょ」
「私は我慢して集塵さんにあげます!」
「いらないから……銀髪にでも食わせておけ……って銀髪はいないか……」
「ですね……」
銀髪……早く戻って来い……。
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