第45話 箱の中身は……?
バリバリバリっ!
銀髪の奴は遠慮なくカルビ炭火焼きチップスの二袋目に突入した。その隣にはテーブルの上に置かれた段ボール箱を前にニコニコしながら俺を見つめている五十嵐さんの姿がある。
それにしてもよく
持てなくはないだろうけど、段ボールの高さが280㎜くらいはありそうな大きさだから、抱えてこないと駄目だったろう……幅もそれなりにあるし。
頑張って運んだんだろうな。最後まで協力してやるか……
「で? 用はこの中身のウラライヤとかいう機械を使えるようにセッティングすれば良いんだろ?」
「流石っ! あたし機械とか全然駄目なのよ。マニュアルいらずの簡単操作らしいけど初めての物ってね? ほら?」
「ほら? とか言われてもな……とりあえず早速開けてみようぜ」
俺は仕事用のデスクの引き出しからカッターナイフを取り出してきて段ボールを止めているガムテープを端まで切っていく。銀髪はお菓子に夢中で見向きもしないが、五十嵐さんは立ち上がって覗き込む勢いだ。
……間近に迫る五十嵐さんの好奇心に満ち溢れた瞳が可愛すぎて、ちょっとドキドキしてしまうな。
「よし、開くぞ!」
「集塵くん。はやくはやくー」
「今、開けるから……」
段ボールを開けると、中には
「随分と簡素に包まれてるな。箱のサイズと中身が合ってないじゃねーか……運んでいる最中に嫌な予感はしていたけど」
「そうなのよー。持ってくる時に中で動く感じがあったから壊れていないか心配になっちゃった」
たしか貰い物だよな? 前の持ち主が適当に詰め直したんじゃねーのかこれ……
「とりあえず出してみようぜ」
箱から取り出し、本体を包んでいるプチプチの緩衝材を剥がすと、まるでグランドピアノのような質感の真っ黒な立方体が姿を現した。これは中々の高級感だ。
「わー! 綺麗ねー。見て、あたしの綺麗な顔とフツメンの男が映っているわよ」
「はいはい……」
俺は五十嵐さんがウラライヤに見惚れている間に、用の無くなった緩衝材を手にすると雑巾を絞るようにして遊んでみた。空気の入った粒がバチバチバチと割れる音が部屋の中に響く。
「なんそれーー! 集塵っ! わたしもやりたいぞ」
予想はしてはいたけど銀髪が、お菓子を食べる手を止めて反応してきた……これは使える。
「面白いだろ? お前にやるよ」
「おおおおっ!」
「それっ!」
「あっ! 何するんだー!!」
俺は緩衝材を丸めてテープで固定し奥の部屋へと放り投げると、銀髪はまるで飼い慣らされたペットのように、それに向かって走りだした。
「五十嵐さんっ! 今だっ! テーブルの上にあるカルビ炭火焼きチップスを一枚食べて! 今しかない!」
「え……いらないわよ……」
「食べないと二度と食べられないぞ!」
「大袈裟ねー。普通に貰えばいいじゃない?」
「それが出来たら苦労はしねーんだよ」
折角レディーファーストで一口目を譲ったというのに……仕方ない、俺から食うか……
「あーーーー! 集塵、何してるんだーー! わたしのだぞ!」
チッ……もう戻って来たのか。
銀髪は戻ってくるなり再びお菓子を食べ始めた。緩衝材で遊ぶのはやめたようだ……俺が盗み食いをしようとしたのを警戒して平らげてしまおうということかな? 結局、食べられなかったか……
「ねね、銀髪ちゃん。あたしもそれ食べてみたいな♡」
「……食いたいのか?」
「うん! すっごく食べたいです!」
「やめとけ、やめとけ。指を噛みちぎられるぜ。大体いらないんじゃなかったのかよ」
「いるわよ……誰かさんみたいに姑息な方法で食べるのが嫌だったの。美味しく味わえないじゃない」
銀髪は俺を睨みつけると数秒考えたような素振りを見せ、お菓子の袋を五十嵐さんに向かって差し出した。
「女……一枚だけだぞ」
「いいのー? ありがとうー!!」
二人は俺を睨みつけながらカルビ炭火焼きチップスを頬張ってる……なんか怖いんだけど?
「……五十嵐さん。美味いか?」
「ん? 美味しいわよ? そんなことより早くウラライヤの準備してよね」
「そうだぞ集塵! ウラライヤの準備を早くしろ!」
「お前ら……まるで仲良しみたいだぞ」
とはいえ実際の所、銀髪は未だに五十嵐さんのことを名前では呼ばないんだよな?
――何か理由でもあるのだろうか……
「ただいまにゃ!」
ねこの奴、朝から何処いってたんだよ……。
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