第64話 ヨドラ文鳥を救え……!

 空を見上げた俺の目には一羽の文鳥の姿が映っている。多分、皆んなも同じだろう。ホンマは知らんけど……。


「集塵くん。あの鳥……間違いなくヨドラ文鳥よね? 逃げられちゃったのかな?」


「ああ、恐らくそうだろうな。トカゲのしっぽを持っていかれてしまった」


 これは不味いぞ……ヨドラは元々部屋に勝手に入って来ただけだ。逃げても問題はない。


 それよりもトカゲのしっぽの方だ……あれを取り戻さないことには鳥籠と鶏めしが、こちらに戻ってこな……ん? まてよ……ヨドラが部屋から逃げ出したということは飼わなくて済むということだよな? そうなると鳥籠にはもう用はない。


 鶏めしだって銀髪は食べたかっただろうが、無理してまで取り戻すものでもないし……まぁ、無駄な出費は出てしまったけれど勉強代と思ってそこは諦められる。


 なんだ……もう解決じゃないか。


「集塵。駄目だぞ! ヨドラ文鳥は飼うんだ!」


「お前……読んだな」


「なになに? 集塵くんヨドラ文鳥飼わない気だったの?」


「当たりま……」


 俺は瞬間、言いかけやめる。何故なら悲しそうな表情をした銀髪が俺の目に入ってきたからだ。なぜ、そんなにヨドラ文鳥を飼いたいのか理由は謎だが、気に入ってしまったのだろう。


「仕方ねーなー。ヨドラ文鳥を捕獲しよう」


「おう! サンキュウだ! そういうところ好きだぞ!」


 ……なにが好きだぞ……だ……まぁ、悪い気はしないけどな。


「でも集塵くん、どうするの? あの高さじゃ届かないよ」


 たしかに空を飛ばれていては、手のだしようがない。とはいえこのまま黙って見ていたらヨドラ文鳥は何処か遠くへ飛んでいってしまうかも知れない。


「どうしたらいいんだ……」


「呼んでみるとか? エヘヘ」


「ペットにしていたわけでもないし、それで降りて来るなら苦労はしないぜ」


「集塵。わたしが呼んでみる」


「ん? いや、だからそれで済んだら苦労はしねーって」


「まかせろ!」


 銀髪はにっこり微笑むと両手を口元にやりヨドラ文鳥のいる大空を見上げる体制をとる。


「ヨドラーーぶーーんーーちょーーうーーーーっ!!」


 辺り一帯に響くくらいの大声でヨドラ文鳥の名前を銀髪は叫んだ。正直、耳を塞ぎたくなるほどの音量だ。五十嵐さんは耳を塞いでいる。


「集塵くん! 見て!」


「あ!」


 ヨドラ文鳥に変化が起きている……銀髪が叫んだことが原因なのか上空でフラフラし始めた。


「あれは落ちてきますね……」


「ん? ホンマいたのか……忘れてた」


「……」


「来たぞ! 集塵!」


「来たっていうか……おいおい! 気を失って落ちてきてるじゃねーかっ!」


「きゃー! このままじゃヨドラ文鳥が死んじゃうよーーーーっ!」


 おいおい! まじかよ! このままじゃ五十嵐さんの言う通り地面に叩きつけられてヨドラ文鳥はこの世から消えてしまうし墓まで用意しなくちゃならない。


「くっ! 受け止めるしかないっ!」


「いけっ! 集塵っ!」


「集塵くんっ!」


 ――俺は皆んなの声を背にヨドラ文鳥の落下位置へ向かって走りだす。死ぬなよヨドラっ! 間に合ってくれーーーー!




 

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