第152話 企業秘密

 ――ピンポーン


 二回目のインターホンが鳴った。


 そういえば、ねこの存在を忘れていた……朝から外出しているのだから、いい加減戻ってきてもおかしくない時間だ……というより遅いくらい。


「とりあえず、玄関いってくる」


 テーブルから立ち上がった俺は足早に玄関へと向かいドア越しから声をかけてみることにした。


「はい……どちら様ですか?」


「わたっちにゃ! 開けてにゃ!」


 ねこだった……五十嵐さん、弁当いくつ買ってきたんだろ……とにかくドアを開けてやるか……。


 ――ガチャ


「ただいまにゃ!」


「お、おかえり……随分と帰りが遅いじゃないか? 朝から何処いってたんだ?」


「にゃっ!? そ、それは企業秘密にゃ!」


「企業秘密……なんだそりゃ」


「秘密は秘密なのにゃ! 気にしなくていいもにゃ!」


「別に無理に話せとは言わないけどな……」


 何を動揺してるんだ? いいもにゃ! とか言って噛んでるし……まぁ、いいか。


「飯はまだだろ? 今、丁度みんなで食事の用意をして待っていたんだ」


 物は言いよう……物は言いよう……。


「にゃっ! ごめんにゃ! わたっちは、もう食事を済ませてきてるのにゃ!」


「食事を済ませてって……お前、金なんて持ってないだろ? 拾い食いでもしたのか?」


「にゃっ! そんなことしないにゃ!」


「まさか……お前……盗みなんて……していないよな?」


「するわけないにゃ! 失礼にゃ!」


「……」


「その疑いの眼差しは、なんにゃ!」


「まぁ、気にするなよ」


「気になるにゃ!」


 こいつが、盗みなんてするわけねーか……何を食ってきたかは気になるが、とりあえず弁当の件に関しては、気にしなくても良さそうだ……皆んなも待っていることだし、いい加減、立ち話もこの辺にしておくか。


「皆んな待ってるからさ、部屋にいこうぜ」


「にゃっ!」


「ねこみたいな返事をするんだな、お前……」


「わたっちは、ねこじゃないにゃ!」


「……」


 時々、人間の姿になるもんな……。


「わりぃ……化け猫だった」


「にゃーー!!」


 くだらない会話のやり取りを続けながら、俺たちは部屋に入った。



「ねこちゃん、おかえりなさーい。ご飯どうする? 今、皆んなでカルビ炭火焼弁当を食べるところだったんだよ。ほら、ねこちゃんの分も用意してあるから」


 ねこの分あったのか……。


「あ、五十嵐さん。ねこは今夜はいらないらしいんだよ」


「そうにゃ! わたっちは満腹にゃ! でも寝る前になったら突然、お腹が空くかもにゃ!」


「そうなんだ? じゃあ、残りのお弁当は冷蔵庫にしまっておく?」


「それでもいいにゃ! でも食べてしまっても構わないにゃ!」


「そっかー、銀髪ちゃんどうする? 食べる? いつも一個じゃ足りないでしょ?」


「え? いえ、わ、わたしは一個でいいかも……アハハ」


「そうなの? 今日は、お腹空いてないのね? じゃあ冷蔵庫にしまっておくわね」


 五十嵐さんは、スクっと立ち上がると、弁当を持って冷蔵庫の方へ向かった。


 ――それにしても……銀髪のやつ……食欲がないなんて、何処かまだ具合が悪いのかな?







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