第123話 知らないままで……

 銀髪の無事をスマホの画面で確認していたけれど、こうして目の前で見ると心から安心出来るな……心配させやがって……。


「おいっ! うさぎっ! 集塵に何を飲ませたのっ!」


 銀髪はドアを開けて入ってくるなり、外からの陽の光を背に怒鳴るような口調で言い放った。


「あれはーー。オマール海老のビスクですよーー!」


 オマール海老……そうだった! あの時の味! 今でも微かにだが覚えているぞ。


「たしかにアレは美味かった……」


「何、呑気なことをいってるんだ集塵っ! その何とかっていう飲み物おかしいよ!」


 たしかに、あの後からの記憶が無いことに俺も違和感を覚えているぜ。


「お前たち……あの飲み物に何か細工をしただろ?」


「どうしますかーーモウツαくんーーバレちゃってるみたいですよーー!」


「仕方ない……出来れば知らないままで、いて欲しかったんだけどね」


 モウツαは額に人差し指をあて、ため息を漏らした。


「なんだよ? 説明してみろよ」


「うーん。なんていうかね……集塵くんは、突然僕の部屋を訪ねてきたでしょ? そういったアポ無しは困るんだよねぇ……僕にも段取りというものがあるんだよ」


「段取りって……」


「僕は、きちんと話す内容を整理した後、心の準備が必要なんだ。せめて訪ねて来る前に電話するとか、一言くれたら良かったのに……」


 なんだ、その下らない理由は……まぁ、突然出向いた俺も悪かったとは思うが、何もあんな怪しい真似をする程のことでも無いだろうに。


「それを言うなら、今は都合が悪いだとか言えば良かったじゃねーか。大体、お前の電話番号なんて知らねーし」


「うーん……それだと、まるで突然来られて迷惑している見たいじゃないか」


「迷惑だったんだろ? なら遠回しに断れよ……」


「それで、集塵に飲ませた物は何だったの? あの後からの記憶が見えて来なかった」


「そうだ! あのビスクに何か入れたんだろ? 何をしたんだよ」


「アレの中には僕の開発した薬を混ぜさせてもらったよ。脳への信号を妨げることによって一時的に記憶を消すことが出来るんだ。詳しく説明しても君たちには理解出来ないだろうから、この辺で止めておくけど」


 悔しいが、確かに詳しく説明されてもよくわからないのは確かだ……それにしても危ねー薬だな……悪用されたらどうするんだよ……。


「理由は分かった……でも少しやり過ぎじゃねーか? 俺の記憶をどうこうするのは、まだいい……俺だけの問題だからな……だけど、銀髪を五階から投げ落とすのは、あれはどう考えてもやりすぎだ」


「……」


「いや……なんで黙るんだよ……」


「……そうだね……さっきも話したけど君の精神的ダメージを計算に入れていなかったのは僕のミスだ。謝るよ」


 ――こいつら、俺たちに対して悪かったなんて微塵も思って無さそうだな。











 







 







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