第37話 パクパク銀髪……!
ねこの様子を見ているかぎり、これ以上追及するのも可哀想な気もするし止めておこう。そういえば銀髪のことを放っておいてしまったな……流石にもう大丈夫だと思うけど。
俺は銀髪が倒れていた場所に目をやると、変わらず横になったまま
「集塵、五十嵐姉さんはどうしたにゃ?」
ん? ねこの奴、五十嵐さんのこと心配してるのか?
「五十嵐さんはヤクモを追い返してくれている所だ。きっとすぐに戻ってくるよ」
「なんか申し訳ないにゃ……」
「気にすることはないさ。そういえば変わった弁当買ってきたんだぜ? 五十嵐さんが戻るまでに用意しといてあげよう」
「わかったにゃ!」
「えーと、たしか弁当は五十嵐さんのトートバッグの中だったよな」
俺は五十嵐さんのバッグを見つけるのに部屋を見渡したが、それらしい物は見当たらない。
銀髪にカルビ肉を食わせた時に、ねこが素早く見つけてきたから分かり易い場所にあるのだろうと思っていたのに考えが甘かったか。
「うーん……どこにあるんだ?」
「隣の部屋に置いてあるわよ」
「あ……五十嵐さん戻ってたのか」
声の方に振り返ってみると、そこには五十嵐さんが立っていた。本当に早く戻ってきたよ……
可笑しいな? ドアの音は聞こえてこなかったけどなぁ……さては俺を驚かそうと静かに開け閉めしたな……そうなると少しは驚いてあげないと可哀想かも
「うわーびっくりーしたなーあーおーどーろいたー」
「無理に驚いたふりしなくてもいいわよ……」
「いや、一応やっておこうかなと……もうヤクモは追い返したのか?」
「うん。もう大丈夫だと思うけど」
「面倒なこと任せて悪かったな。ありがとう」
「いいのよ。お弁当あたしが用意しておくから銀髪ちゃん起こしてあげたら?」
「そうにゃ! さっきから口元がパクパクして気持ち悪いにゃ」
「そうにゃじゃねーよ。お前も何か手伝えよな……」
――何だか昼飯買ってきて食うだけだったのに随分と遠回りだったな……とりあえず銀髪を起こしてみんなで弁当を食べるか……
俺は口をパクパクとしている銀髪の横に座り、その口に向かって静かに人差し指を近づけて見た……目標到達地点まで、あと
あと一センチ位の所まで俺の指先は近づく……銀髪のパクパクは止まらない……
「なんだこの緊張感……面白すぎる……」
バコッ!
「痛っ!」
突然、後頭部に鈍い痛みが走った。
「なに変態みたいなことしてるのよ! 普通に起こしなさいよね!」
「いや、だからってリモコンで頭を殴るなよ……リモコン壊れるだろ……」
「銀髪ちゃん、起きて。今から、みんなでお弁当食べようね」
五十嵐さんは俺の言うことを無視し銀髪に優しく声をかけると意外にもあっさり口パクを止めてムクっと上体を起こした。
「おおおおっ! 女っ! 飯か!?」
「そうよー可愛いお弁当買ってきたんだから♡」
「別に弁当に可愛さは求めていない……美味いのかそれ?」
「たぶん美味しいよ……うん……エヘヘ」
チン!
「あっ! レンジ鳴った! お弁当温まったみたい」
「お? 弁当もう温めてたのか? いつのまに……」
「誰かさんがアホな行動をしている間よ……みんなテーブルについてね」
五十嵐さんはレンジから弁当を取り出すと、熱くなったそれを指先で摘むようにしてテーブルまで運んでくれた。
「はい! これが、ねこちゃんと銀髪ちゃんのオムライスね」
「おおおおお! なんだこれは! 可愛いぞ!」
さっきまで弁当に可愛さは求めてないとか言ってたじゃねーか……
「でーこれが、あたしのオムライスでしょ……集塵くんはこれね。ハイっ」
「ん? ちょっとまて……」
「なによ? どうかしたの?」
「この肉のない弁当はなんだ?」
「何って集塵くんが自分で選んだカルビ炭火焼き弁当じゃない? お爺ちゃん忘れちゃったの?」
「誰が爺さんだよ! カルビなんて何処にもないじゃねーか……」
「仕方ないでしょ? さっき銀髪ちゃんにあげちゃったんだから我慢しなさいよ」
「おい! 銀髪! お前のオムライスと交換しろよな!」
「……」
こいつ聞こえないふりをしていやがる……でもまぁ、ケチャップで描かれたねこじょの絵を見て喜んでもいるし、仕方ねーなー。
今回はこいつで我慢するか……かろうじて白米にタレがついているし味わえなくもない。
「じゃあ食べようぜ! いただきまっ……」
「どうしたの集塵くん?」
カルビ弁当の残骸に箸を伸ばした瞬間、部屋の窓から顔を覗かせ俺たちの様子を見つめるヤクモの姿が目に飛び込んできた……。
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