第116話 記憶

 妙にオシャレなグラスに入ったオレンジ色のホットな飲み物……この味……。


「海老?」


「正解でーーす! それは、うららぎ特製オマール海老のビスクですーーーー!」


「なるほど……言われてみれば、この色のスープは見覚えがある」


「ゆっくり味わって下さいーーーー!」


「あ、ありがとう」


 飲む前は恐ろしく緊張したけれど、これの正体が分かった今では美味しく飲める……でも、いきなりこんな濃厚なものを出されてもな……美味いけど。


「それじゃあ、話を戻そうか集塵くん」


 そうだった! スープを悠長に味わっている場合じゃないよな……ヨドラ文鳥と銀髪を待たせているし、早めに戻らなくては。


「……」


「あれ? 説明は?」


「いや……僕に訊きたいことがあって集塵くんは態々わざわざこの部屋まできたんだよね?」


「そうか……俺からか……」


「そうだね。疲れてるのかな? 大丈夫ですか?」


 いざとなると何を訊いていいのか分からなくなってきた……いや、単純なことだ。まずは銀髪が倒れた原因だ……ってあれ? 俺、それもう既に伝えた記憶があるんだが……あれ? 伝えてなかっ……なんだ……頭がぼーっと……。


「悪いけど、何だか急に眠く……」


「そろそろスープが効いてきたかな……突然、訪ねて来ちゃって……まだ早いんだよ……」


「何を言ってるん……だ……」


「モウツ……くん……あと……このーーお客様は……」


「言葉が途切れて……何を……話して……」


 いるん……だ……。


 ……なんだろう……身体が軽いような……ふわふわと足が宙に浮いている感覚。



 ――集塵くん! 集塵くん!


 ……誰かが俺を呼んでいる?


 ――おいコラ! 起きろこの!


 ……前にもたしか……こんなことが……あったな。


 ――集塵! おい! 集塵!


 ……そうだ……前に気絶して……気絶?


「痛いっ! 痛いじゃねーか!」


 突然、何かに激しく突かれたような痛みが顔に……。


「良かったー! 集塵くん大丈夫?」


「え? あれ? なんで五十嵐さんがいるの?」


 気がつくと俺の目には五十嵐さんの姿が映っていた。たしか俺は……。


「おいコラ! 中々戻ってこねーと思ったら、何で外で寝てやがるんだよ!」


「寝てた? 俺が?」


「そうよ。あたしが学校から帰ってきて集塵くんの部屋に寄ったら玄関の前で倒れているんだもの。驚いちゃった」


 どういうことだ……たしか俺はモウツαの部屋を訪ねて……駄目だ……その後のことが思い出せない……だが、今は……。


「そんなことより……顔が痛い……」


「テメーが悪いんだぜ? 中々起きねーからよ。それでも手加減してやったんだ! 感謝しろよな」


 さては俺の顔をクチバシで突いたな?


「他に何か別の起こし方は無かったのかよ……」


「贅沢いうな! また突くぞ!」


「やめてくれ……」


「ねぇ、集塵くん。何であんなところで寝てたのよ? 大丈夫? 具合でも悪いんじゃ?」


「ありがとう。身体の方は大丈夫だよ……ただ……」


 ――何で俺は外なんかで寝ていたんだ……この部屋を出たあとの記憶がない。




 








 


 








 

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