第5話 誰だ、そいつらは?

「ふぁ〜ぁ」


妖狐になって早三日、俺は伸びをして立ち上がった。

ゴッと頭を上げた拍子に何やら硬いものに頭をぶつけた。


イテェ、ベットの下で寝てたの忘れてたわ、まさか思いっきり頭をぶつけるとは落ちぶれたものだな。


一人、ベットの下で黄昏ていると上から寝返りをうつ音がした。


「寝ている、みたいだな」


ゴソゴソッとベットの下から這い出た俺は、ベットの上に飛び乗った。


「キュ、キュキュキュー(おい、朝だ。 起きろ)」


片方の前足で器用に額をペシペシ叩いた。


「う、うぅ〜ん」


ロゼは、俺の足を叩いて再びスゥスゥと、寝息をたてて深く眠むっていってしまった。


もう朝だから、起きろっていってるんだけどなぁ。 まぁ、しゃあない、奥の手だ!


そして、俺はゴチィンと、勢いよくロゼの額に頭突きをした。


「い、痛い! な、何事!?」


いきなり頭突きをされたことに、目を白黒させながら飛び起きたロゼは、周りを見渡した。


「だ、誰もいない」

「キュー(ここにいる)」

「あ、えーっと、コンちゃん! おはよう」


今、思いっきり俺のこと忘れていただろ。 はぁ、先が思いやられるわな、これは。


「え、何? 私がいけなかった? 一日で相手のことを忘れる私が悪いのかな?」


あーあ、拗ねちゃった。 どーしよーかなー、俺、女と子供は、すぐ拗ねるから嫌いなんだよなぁー。 でもさ、この状態で拗ねるのはないだろ? 普通。


『あー、拗ねるなまずは』

「拗ねてないもん。 いじけてるだけだもん」

『一緒だろ。 拗ねるもいじけるも』


俺は、深くため息をついた。 こんなところで、魔力を消費するつもりなんてなかったのにな、と。


だが、俺はここで、とあることに気がついた。


? なんだ? 昨日使ったよりも、念話による魔力消費をほとんど感じない、というよりか、減った端から、新たに魔力が供給されているような、そんな感じがする。


俺は、考えがそこまでいたり、ハッとなって、ロゼを見た。


「な、何よ?」

『昨日よりパスが強くなってやがる。 ハハ、こりゃ、嬉しい誤算だな』

「え、な、どうしたのよ! 説明してよ!」


説明って言われてもな、従魔登録自体が、俺にとっては初めてなんだけどなぁ。


『あー、簡単に言うとな、俺とお前との間の魔力パスが昨日よりも強く感じられるようになったったわけだ』

「うん、全然わかんない」


そりゃそうだ、俺でさえギリギリ理解できるって感じだからな。 だからといって、これは放置できることではないな、ロゼの成長にも繋がるだろうしな。


「で、コンちゃん! あなたについて教えて!」


そういえば、そんな約束していたな。 教えておいて悪いことはないからいいか。


『わかった、俺は、お前たちがいう『賢者』グレン・マーカー・マーリンだ』

「えっ!? 賢者様!? でも、今は妖狐だよね?」

『あぁ、そうだな。 多分俺は、なにかの呪いにかかってこの姿になっているわけだ』

「う、うん。 妖狐になったわけは、わかったけど……これから、コンち……ううん、賢者様が勇者様の育成をするのですか?」

『はぁぁ??』


何を言ったんだこいつは? たしかに俺には、勇者育成をしてくれと頼まれたが、その話はなかったことになったはずだぞ?


「え、だって、勇者様の育成に賢者様の弟子がすることになったって、王都から通達があったのだけど……」

『いや待て、俺の弟子ぃ? 俺は弟子を取ったことはないぞ?』

「え? つまりどう言うことですか?」

『つまりな、誰だ? そいつらは? ってわけだ』


大方、俺への連絡が取れなくなった=俺が死んだとでも考えて、優秀な魔道士を俺の弟子ってことにして勇者育成をしようと考えたんだろうな、相変わらず気に入らないことをしてくれる。 ん? ちょっと待てよ。


『勇者召喚されたのはいつだ?』

「一月前ぐらいです」

『一月前か……』


俺が、目を覚ますまで約一月の時間がかかっている……これは、? そうではなく、、


と、そこまで考えてゾワリと、背中を冷たいものが駆け巡る感覚に陥った。


ハハ、そんなことはあり得ない、など、禁忌魔法でも出来ない。 だから、あり得ない、俺がこの体になったのは、ただの偶然だ。


「ど、どうしました? 顔色が悪いですよ?」

『いや、大丈夫だ。 あと、普通に接してくれていい。 今の俺は、お前の従魔なんだからな』

「うん、わかった」


ロゼは、ぱっと、花が咲くような笑みを浮かべた。 先ほどまでの、少し緊張した雰囲気は消えていた。


ふーっ、少し気持ちが落ち着いたな、 ロゼに感謝だな。 ロゼがいなかったら、発狂しかけていたな。


ふふっと、自虐的な笑みを浮かべ、ロゼに向き合った。

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