第66話 これが、私の願いかな

(ロゼ視点)

 コンちゃんが居なくなった。 自分の意思で居なくなった。


「ロゼ、泣かないの」

「泣いでな"い"」

「そんな顔で言われても説得力ないよ」


 今は、アオイに慰められている真っ最中。


♦︎


「落ち着いた?」

「うん、大丈夫」


 一頻り泣いた私は、アリシアさん、ミルドさんに応接室へと連れて来られた。 二人が少し不機嫌そうにしている中で私は今日あったことを話した。


「はぁ〜、いつもながら勝手よね、あいつ」

「まぁ、いつものことじゃないか」


 二人ともすぐに諦めたかのようにため息をつく二人、アリシアさんに至っては、立ち上がって扉の方へと歩き始めていた。


「待て、アリシア。 お前はどこにグレンがいるか分かるのか?」

「分からない、だから、探しに行く」

「アホか、無闇に探しても意味がないだろ?」


 目の前でアリシアさんとミルドさんが言い合いをしているのを見ながら私はどうしたらいいかわからない。

 

「ロゼ、私と行くわよ」

「は、はい!」


 アリシアさんにそう言われて私はとっさに立ち上がった。 その時、扉が開いた。


「申し訳ありません。 ミルド様、アリシア様。 そちらにおられるロゼ様を王都に連れて来いと王より命令されました」


 ユイさんたちと一緒に居た自称賢者の弟子の二人だった。 その二人が突然、応接室に乱入してきた。


「あなたたち、何言ってんのよ」

「申し訳ありませんがそのお言葉は聞けません」


 弟子の二人は首を横に振った。

 アリシアさんの目の前にミルドさんが立った。


「アリシア、ここは言うことを聞いておけ。 あいつらに変なしこりを残すな、面倒なことになるぞ」

「……わかったわ。 でも、私があいつの代わりにロゼについていくから」


 アリシアさんは、弟子の二人にそう宣言した。



 応接室であったことをアオイに話すと困惑していた。


「え? そんなことになってたの? ん~、私も行こうかな、アリシアさんが行くなら私もついていこうかな」

 

 困惑していたアオイだったけど、話を飲み込むことができるといつものアオイだった。 それが、今の私にはうれしかった。


「でも、そうなるとあのいけ好かないおっさんに会わないといけなくなるのよね」

 

 アオイは面倒くさそうにため息をついた。 アオイがこれほどまでに言う相手を見てみたい気持ちも出てきた。


「ありがとう、力がもらえたよ」


 アオイにそう言って私は家に帰ってきた。 そこにはコンちゃんの姿はなくただ広い生活感の溢れた部屋だけだった。 それは、寂しく、悲しく、孤児院にいた時のことを思い出してしまう。 人はいるのになぜか一人でいると感じてしまうそんなことを。

 そのとき、玄関からゴンゴンとノックの音が聞こえた。 この家の家主であるコンちゃんはいないが一応、顔だけは出した。 玄関には、つい先ほど別れたアオイが果物入ったカゴを持って立っていた。


「アオイ……?」

「なに死にそうな顔してんのよ、少しは私も頼ってよ。 師匠ほど役には立たないけどさ」


 アオイの気遣いに今は救われた。 私一人だけだとつぶれてしまいそうだったから。


「ありがと、アオイ」

「どういたしまして」


ニヒッと、コンちゃんと同じような笑みを浮かべるアオイ。 それがなぜかうれしくて、私は泣いてしまった。 突然泣き出した私に驚いたアオイは驚き、人目を気にするように私を家の中に押しやった。


「ごめんね、嬉しくてつい」

「着いじゃないわよ、私が泣かしたみたいに見えてたじゃないのよ」


 呆れたように肩をすくめたアオイ、それに私は「今日の私はどこか弱いね」と泣き笑いになりながら言った。 それを聞いたアオイは少しきょとんとしたかと思うと大きいため息をついた。


「師弟揃って強がりみたいね。 ねぇ、ロゼ」

「何?」

「私の前ぐらい強がることないから、ひとしきり泣いちゃいなよ、とりあえず今日分の涙をね」


 そっと優しい笑みを浮かべてアオイは私に胸を貸してくれた。 私はアオイの胸の中で涙が出なくなるまで泣いた私は「ありがとう」と言ってソファーに座った。


「もう大丈夫だね」

「うん、ありがとう」


 赤く腫れた目を見ながらそう言われた。 

 今日は本当にアオイに助けられてばかりだった。 いつかこの借りを返さないとと心に誓った。


「ロゼはこれからどうしたい?」

「コンちゃんの力になりたい。 これが、私の願い。 今のままだと、コンちゃんの足でまといだから、コンちゃんと肩を並べて戦えるほどになりたい。 これが、私の願いかな」


 改めて口にすると恥ずかしい、いつも思っていたことだけど、誰かに聞かれている恥ずかしい。 アオイはそんなことも知らずにほんのり赤くなった私を見ながら嬉しそうにした。


「私の願いはね、家に帰ること。 これは変わらないかな」


 私たちは色々な話を夜遅くまでしていた。 昼前から夜が明ける少しまでずっと話し込んだ。 アオイの世界のことやコイバナが多かったかな? そのおかげか、コンちゃんが居ない寂しさや悲しさを感じることはなかった。 


「それでは、王都へ向かいましょう」


 夜遅くまで話した昼前、少し眠たい眼で弟子の二人の前に来ていた。 アリシアさん、アオイはもちろん、ユウキ様やユイさんも一緒に行くことになった。 

 弟子の二人が私たちを見渡すと手に持っていた転移結晶を発動させた。

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