第32話 いい師弟関係になってきているわね
俺たちはその後、勇者たちと別れてアリシアが住む仮拠点へと案内された。
『俺の家の隣に建ててるんだな……』
アリシアの家はここに建てている俺の仮拠点の真横に建てられていた。
「ダメだった? ミルドがここ以外に開けられる場所がないって言ったからさ」
アリシアはあっけからんと言った。
実際にここは居住区域であり、ミルドが拾ってくる子供の孤児院や孤児院を出た子たちが経営している宿、商店が立ち並んでいたりしている。
他には、ミルドやミルドの弟子たちが鍛治をしている鍛治区域がある。 本当の村のようにここは動いている。
「え!? 師匠の家隣何ですか!?」
今更ながら蒼が俺の家が隣だということに突っ込んできた。
「なに? グレンの家に入ってみたいの?」
「はい!」
『おい、待て。 やめろ、ここには危ないもんもあるんだぞ?』
「いいじゃない、少しぐらい」
アリシアがそう言うと、ポケットの中からじゃらじゃらとした鍵を取り出してきた。
『待て、何でお前が俺の家の鍵を持ってんだよ』
「ミルドにもらった。 俺はあるからお前が使えってね」
『あいつ〜』
今ここにはいないミルドに向けて恨みをぶつけるように言った。
「じゃあ、ご開帳〜」
ガチャっという解除音とともにドアを開けたアリシアたちの目の前には服や何かしらの魔力付与がされたアクセサリーなどが乱雑に置かれていた。
「汚ったな」
『うるせー、片付けに来た時に王宮への召喚状が来たんだよ。 だから、片付いていないんだよ』
片付いていない理由を言うとさらにウワァといった、侮蔑の眼差しを向けられた。
『な、なんだよ』
「男ってそういうことを理由にして諦めるよねぇ」
アリシアの言葉に二人はうんうんと頷いていた。
俺のどこがいけないって言うんだ?
「なんかないの?」
『寝室には行くなよ? あそこはお前たちの行くような場所じゃないからな?』
「そう、寝室に行けばいいのね!」
『おい! 人の話聞いてたのか!?』
ふざけたことにアリシアが寝室に向かって歩き出したが今の俺には止めるすべがない。
「ふ〜ん、寝室は普通なのね。 で、なんであの木剣があそこに飾ってあるのよ」
寝室に入って真っ先に見つけた木剣のことを聞いてきた。
『理由はわかるだろ? 対お前専用の剣だぞ? ミルドが最高傑作と言った剣すらも切る名剣だぞ?』
「名剣なのは付与された魔法でしょ? 確か『剣破壊』と『状態維持』だったっけ? 剣で攻撃を受けたら必ず破壊されるっていうふざけた魔力付与された木剣でしょ? 覚えてるに決まっているわよ」
アリシアはふざけたことを言わないでよねと言わんばかりに呆れていたが、ロゼと蒼の二人はあり得ないものを見るかのような眼差しを俺に向けていた。
一応だが、木剣は世界樹の枝から作っているから普通の鉄の剣ぐらいなら魔力付与なしで壊れると思うぞ。 世界樹の枝は、
『いや、だってよ、アリシアとミルドが魔力量の多い相手への威力増大やらなんやらを付与した剣で戦うって言うんだぞ? それを防ぐためには破壊するしかないだろ?』
しっかりとした正論をぶつけているはずだが、二人からは「あり得ない」と言われてしまった。
『な、なんでだ?』
「だって、その人の最高傑作なんだよね? それを木剣で壊すのは何か違うような気がするんだよね」
ロゼは頬をかきながらそう言った。
ロゼ、お前もそう言うのか。 蒼ならまだしもロゼに言われると胸にグッとくるものがあるな……。
「いい師弟関係になってきているわね」
『どこがだよ!』
「え、人の目を憚らずに言い合いをするところ?」
『なんで言った本人が疑問系なんだよ』
今回は俺が呆れながら言う番だった。 そして、俺がそう言うと何故か飾ってある木剣を手にしてこちらに構えながらにじり寄ってきた。
『どうした? アリシア?』
「ん、従魔には躾が必要だと思うからね。 格上の相手に口答えできないようにしないといけないと思ってね」
『よし、それじゃあまずは話し合おう! だからやめてくれ、俺だけに被害が出るのならいいがロゼにまで被害が出るぞ!』
「それもそうね」
そう言うとアリシアは木剣を元あった場所に戻して寝室から出て行った。
ほんとうに嵐のようなやつだな。 まぁ、本当に見られたくないやつは見られなくてよかったけどな……。
俺が見られたくなかったのは、俺とアリシアとミルドの三人で冒険者になった記念に一緒に撮った写真である。 俺たちはその時、冒険者に成り立てで、生活が苦しい時にミルドが作ったオリジナルの魔道具だと言ったもので撮ったもので色褪せてはいるものの今でも大事にしまっている宝物でもあるのだから。
本当の俺の家にも置いてあるものなのだが。
『そろそろ俺の家から出て行ってくれないかな?』
「うんそうね、見たいところは大体見たからもういいわね」
アリシアがそう言うとロゼも蒼もうんうんと頷いて俺の家から出て行った。
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