第33話 本気で言ってるの?
俺たちは今、アリシアの家にいる。
「アリシアさんの家は片付いているんですね」
『悪かったな。 俺の家が汚くてな』
ロゼの一言でムッとしながらそう言った。
「ち、違うよ。 コンちゃんの家が汚いって言うんじゃなくて女性の家だなって思って……」
「ロゼ、無理にフォローしようとしなくてもいいのよ?」
慌ててフォローしようとしたロゼの耳元で蒼はそう囁いていた。
狐の耳って耳が良いんだな。 なんていうか、少し虚しくなってくるな聞こえすぎるのも……。
「で、あなたたち今日はふざけていたの?」
「え? なんのことですか?」
全くわからないといった表情の二人。 それに対してアリシアは若干怒っているような感じだった。
「わからない? それ本気で言っているの?」
『本気だろうな』
俺はそれに肯定の言葉を言った。
俺も今回思うところが少しあったしな。 それに、今からやらないといけない課題が見えてきたから収穫のある戦いだったが、問題点は先に示しておかないとまた同じことを繰り返してしまうかも知れない。
「いい? まず最初に二人は相手のペースに合わせない」
「いつもどおりにやってましたよ」
ロゼはそう言うが、三ヶ月もの間アリシアに剣を教えてもらっているところを見ていた俺と実際に教えていたアリシアが二人の戦いを見てみればいつもどおりのやり方が出来ていなかったことは一目瞭然だった。
「じゃあ、聞くけど勇者はどうだった?」
「強かったです。 勇者の名に恥じないような強さでしたよ」
はぁ、とため息をついたアリシアは俺にどう思うといった視線を向けてきたので首を横に振っておいた。
「普通に戦えていたら勇者と聖女の二人には魔法と魔術なんて使わなくても勝てる相手だったのよ?」
「え? 勝てるんですか?」
とロゼは不思議そうに聞き返した。
「当たり前よ。 私の連撃をある程度防ぐことが出来るのにあの程度の攻撃で反撃ができないわけないじゃない」
アリシアは肩を竦めながら当たり前のことのように言った。
「それに、ロゼ。 グレンはあんな低次元の魔法を教えないはずよ!」
『あ、アリシア。 ロゼにはまだ杖なしの使い方は教えてないから、いきなり本番で使ってあれだけ出来たってわけだからな』
「え!? ホントの本当? でも、蒼は杖なしでも使えてたよね?」
蒼は杖なしだったって言われてもそもそも魔術師に杖がある方が色々と無理が働いてうまく魔術が使えなくなるなるから杖なしで教えている。
剣を使うアリシアが知らなくても当然といえば当然なんだけどな。 魔法も魔術も強化系統しか使えないし。
「グレン。 何か変なこと考えなかった?」
『いいえ、何も』
ぐるんとこちらを見てニコッと怖い笑みを浮かべていた。
あっぶねぇ。 読心術でも覚えてんのかと思うぐらい心を読んできやがった。 危うく殺されるかと思ったぞ。
「そもそも勇者と聖女は二人が見たアルナという魔族と
この話を国のお偉いさんに聞かれていたらかなり危ないようなことを話しているが、ここに国の者は来ないし、勇者と聖女が勝てないのは事実ではあるが。
「で、これからの二人の特訓方法ですが、二人とも別々に分かれてロゼはグレン。 蒼は私のもとで剣と魔法をしっかりとやってもらいます」
まぁ、蒼に教えることはあとは自分から魔法のコントロールを奪いにいく方法を教えるだけだから別にアリシアの采配に文句を言うことはしない。 それに、そろそろロゼには俺の
『助かるよアリシア』
「はいはい、こっちだってやりたいからやっているのにそういうのはなしでいいって前も言ったよね?」
『あぁ、言ってたな』
「それに、この二人を見てると昔の私たちを見ているようで楽しいんだ」
そう言われて、あぁ、と納得した。
確かに俺たちがパーティを組んでいた時は俺とアリシアの二人がよく衝突してあーだこーだと言い合いになって結局はミルドが止めに入って終わったりそのまま殺し合いになりかけたこともあった。
「この二人は私たちが育ててみたいからやっているのよ。 前のような失敗をしないようにするために」
アリシアはここではないどこか別の場所を見つめながらそう言った。
それに俺は『あぁそうだな』と言い、ロゼと蒼を見た。
『というわけで明日からロゼは俺に、蒼はアリシアになるからよろしく頼むな』
「「はい」」
ここで声が揃ったので俺はクスッと笑ってしまった。
『仲良いなお前らは』
「良くない!」
「ロゼと仲は良くないよ!」
これは俺たちが無くしてしまったもの。 そして、今守ってやりたいもの。 これは俺の過去の過ちの贖罪ではない。 俺たちのようにならないために無くしてしまった俺たちが守るべきものなのだから。
そして、二人にはいつか知ってもらわないといけない闇の中にある俺たちの過去と葬られた歴史について……。
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