第31話 グレン? 誰だそいつは?
勇者は 様子見をしていたロゼと蒼が自分の動きについてこれていないと思ったのか、一気に距離を詰めて勝負を決めにきた。
『決め急いだな』
ポツリと俺はそう呟いた。
まだ相手の実力をしっかりと見ていないところで無闇に突っ込めば返り討ちにあいサポートしてしてくれる仲間に危険が及ぶことがある。 だから、今回のようなタイミングでするには早すぎるわけだ。
「セイッ!」
蒼が勇者の剣を弾くための一閃を放ったが、聖女の防御魔法がギリギリ間に合い防御魔法の障壁に阻まれてしまった。
「祐樹に結衣も前に見た時よりも強くなってるじゃない」
「蒼も見違えるほど強くなっていますよ」
「そりゃどうも」
蒼は聖女と少し言い合っていたが、勇者と聖女の意識には先ほどまでいたもう一人の存在が消えていた。
「私のことも忘れないでね!」
いつのまにか聖女の後ろに回り込んでいたロゼがそう言い放った。
そして、待機状態にしていた魔法を発動させた。
「『
氷系統の魔法で、火と水属性の魔法の派生系魔法で簡単に使える方の魔法でもある。 その中でも『
その氷が聖女を襲おうとした。
「結衣!!」
防御魔法の間に合わない聖女の元に勇者が助けに入った。
だが、それは悪手だ。 魔術の知識がないのは仕方がないとしても遠距離魔法で『
「アオイ!」
「分かってるわよ! 『砕けろ』」
蒼がそう言うとロゼが発動した『
「行け! 『氷のつぶて』!」
氷の破片がすべて聖女と勇者を目掛けて攻撃を仕掛けてきた。
「そこまで!」
氷の破片が勇者と聖女に当たる直前にアリシアが止めた。
氷の破片が勇者と聖女の二人に当たっていれば大怪我をしていただろうからアリシアは良いタイミングで止めてくれた。
これでロゼと蒼の二人が勝った。
「お疲れ様、二人ともこの二週間でも成長し続けているわね」
「「当たり前です!」」
無意識に二人の声が揃った。
「あはは、息ピッタリだね」
そうアリシアは笑いながら言った。
アリシアがそう言い、二人が火花が出そうなほど睨み合うこれがいつもの光景。 だが、今回は違う。 今回は負けた勇者と聖女がいる。
「ねぇ、あんたたちは何で負けたかわかる?」
「力が足りなかったから」
「違うわよ、あんたたちが慢心していたから負けたのよ」
アリシアは勇者と聖女にズバッと問題点をぶつけた。
「俺たちが慢心?」
「うん、あんたたちは少し修行や勉強した程度で強くなったと錯覚していただけ。 だから相手の様子を見ることなく突っ込んだりしたわけ。 じゃないとあんな無謀なことはしないわよ」
呆れたように気づいてなかったの? といった感じでアリシアはそう言った。
「グレンも似たようなことを思っているはずよ」
肩に乗っている俺に同意を求めるかのように見てきたので一応頷いて見せた。
「グレン? 誰だそいつは?」
とても不思議そうに勇者は首を傾げた。
「え? 『賢者』と呼ばれているあのバカを知らないの?」
おい、バカは余計だ。 べつにバカではないが、ミルドとアリシアはバカと呼んでいるらしい。 これは、ミルドの弟子に聞いた話になるのだが。
「それにね。 勇者と呼ばれているのなら自分の奥底にある力を自力で引き出して見なさい? 勇者の力はそんなもんじゃないから、今のあんたじゃ魔王にすら剣が届かないわよ?」
フフッと、自嘲気味の笑みを浮かべて勇者にやるべきことを教えていた。
「今までやってきていたことが無駄ってわけじゃないわよ? ただ今やっていることだけだと足りないから自分の限界だって思ってもさらに一歩出来るようになるまでとことんやって見なさいよ。 そうすればロゼと蒼に近づけるはずよ」
ここだけ綺麗な笑みを浮かべていた。
正直に言って俺はその横顔だけで惚けていたのだから……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます