第30話 やりすぎないようにね
勇者が変なことを言たため二人とも戦意を持ってしまった。
「ちょっと待ちなさい」
アリシアが止めに入ったことで二人の戦意は消えたが勇者には邪魔が入ったといったところだった。
「あんたは?」
「私はアリシア・シーカー・アテナ。 剣士よ」
「アリシアさんって言うんですね」
久しぶりにアリシアがフルネームを聞いた。
「ですが、勇者の俺を剣士が止めていいと思っているのですか?」
「あのねぇ、君武器なしでこの子たちとやる気? ふざけるのもいい加減にしなさいよ」
アリシアは二人を育てたから実力がわかっているが、相手の実力がわかっていないやつにそう言うのはただなめられているように思われるぞ?
「そうですね。 今は武器が無いので今から俺の武器を取りに行きます」
ん?こいつってこんなキャラだっけ? この勇者、前会った時は自分の力を疑わずに誰でも突っかかっているような気がするんだけどなぁ。
「うん、それがいいよ。 あ、でも武器は私の使ってない物をあげるよ」
「いや、大丈夫です。 俺の武器があるので」
そうかそうか、俺がぶっ壊した『
「ふ〜ん、ミルド作の剣?」
「えぇ、もちろんです。 一つ前の剣もミルドの剣でしたが、そこの狐とロゼに壊されましたけど」
勇者がミルドと言った時、アリシアは少しムッとしていたが勇者が俺とロゼに剣を壊されたと聞くと口元に手を当てて肩を震えさせていた。
あーあ、笑ってるなこいつ……。 偽物をつかまされたことと俺とロゼに壊されたことに笑ってるな。
「祐樹。 やりすぎないようにね」
聖女が耳元で勇者にそう囁いたのが聞こえた。
これは、妖狐になった影響かわからないが、聴力がかなり上がっていたから聞こえたのだ。 まあ、気づいたのはつい最近のことたが。
知る気がなかったから気づかなかったわけではないぞ?
だが、聖女の今の一言が気になる。 というより、嫌なことを聞いたような気がする。
それから十分後、黄金の剣を持ってきた。
それを見た俺は、頭を抱えたくなった。
アリシアはというと、勇者が持ってきた剣を見た途端に笑い出した。
「あはは、君、それ偽物だよ?」
涙が出そうになっていたところをぬぐいながら言った。
「は? 何を言ってんだ? これは『
はぁ、やっぱりガキだな。 偽物か本物の目利きができないやつが魔王を倒そうとしたんだぜ? 笑いが出てくるよ。
「君はそれでいいんだね?」
「あぁ、いいぞ!」
アリシアは勇者に確認を取るとこちらにやって来た。
「二人には、グレンが作ってくれた『魔剣』をあげるね」
「「え!? 魔剣!?」」
二人が驚くのも無理はない。 なぜなら『魔剣』とは、魔力が付与された剣のことだ。 込めた魔術によって効果、強度、切れ味が変わってくるが、魔剣とただの剣では魔力を帯びている分、魔剣の方が段違いの性能だ。
アリシアもミルドと協力して作った魔剣を持っている。 ……ほとんどが俺を殺しにかかるような性能だったのだが。
「ちょっと待っててね。 今から取り出すから……」
そう言うと、アリシアは『次元収納』を使い魔剣を二本取り出した。
虚空から魔剣を二本取り出すと「えぇ!」と驚いたように呟いた。
「次元収納は私とグレン、ミルドの三人しか使えないから、驚くよね?」
コクコクと、二人は無言で頷きながらも差し出された魔剣を受け取った。
「えっと、ロゼが『吸魔の短剣』で蒼が『
俺はアリシアの肩に飛び移り思いっきり耳を噛んだ。
「い、痛い! 何するのよ!?」
『お前、吸魔と
「はい、ごめんなさい……」
耳を噛んだのが痛かったのか、二人に渡した魔剣を「今回は使わないように」と言って新たに
『よし、それでいい』
俺がそう言うと、アリシアは勇者たちとの間に入った。
「こっちの準備も整ったから始めるわよ? 私が見ているから好きにやってもいいわよ? でも、相手を殺そうとする攻撃や負けが決まった時は割り込むからそのつもりで。 じゃあ、どうぞ好きに始めて」
なんとも適当な合図で勇者と聖女対ロゼ、蒼による戦いが始まった。
俺は今回は見物人だ。 ゆっくりアリシアの肩に乗って見させてもらうよ。
「ねぇ、グレン。 どっちが勝つと思う?」
『ん? どっちが勝つ? んなもんロゼと蒼に決まってんだろ』
「そうだろうけど、向こうで一番厄介なのは勇者じゃなくて聖女じゃない?」
『そうだろうな、あいつが一番何を考えているかわからないからな』
そうこう言っているうちに、戦いが動き始めた。
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