第29話 おぉ、凄ぇ(棒)

明朝、俺たちはターミナルにいた。


「もう行くのですか」

『当たり前だろ? 昨日が学院最後だったんだから……』

「そうですけど」


ターミナルに来たのはオルバリオただ一人。というより、オルバリオ以外は俺たちが今日学院を出ることを知らないのもあるが。



『それじゃあ、俺たちは行くよ』

「ありがとうございました!」


プシューと、扉が閉まり蒸気機関車が発車した。


「うわぁ! 凄い! 鉄の塊が走ってる!」


蒸気機関車に乗ったことのないアリシアは、初めて乗った蒸気機関車に終始興奮していた。

それから、俺たちは王都に着くとすぐにホーヘンハイマ行きの馬車に乗り換え、ミルドのいる山岳地帯近くまで連れて行ってもらうのに約二週間ほどかかった。


「いつ見ても凄いですね」

『そうだな……』


思わず口をあんぐりと開けてしまいそうな光景が目の前に広がっていた。

アリシアが、魔物を一閃するだけで魔物が細切れになったり、剣で刺突するだけで魔物胴体に風穴を開けて行く様は見慣れていたとしても驚きを隠せるほどのものではなかった。

というより、アリシアは強化魔法や身体強化魔術を一つも使っていない素のままで風穴を開けたり、細切れにしたりしているんだから、アリシアが魔動体って言われても驚かないと思うぞ。


「終わったよ」

『あ、あぁ、進もうか」


アリシアは剣についた血を綺麗に拭き取ってそう言ってきた。

俺たちはもう少しでミルドの元にたどり着ける。

アリシアが魔物に手こずることなく倒せているので三週間の予定が二週間に縮まった。

これは嬉しい誤算なので特に文句などはないのでいいのだが、どうやってミルドに俺のことを信用してもらうかが問題だ。

今までに俺に会ったやつは俺の姿に不思議に思うことは何故かなかったが、ミルドはそうはいかないだろう。 何かあいつを納得させるものが必要だな。


『明日、ミルドが住む村に着くはずだ』

「村?」

『あぁ』


夜になり、俺たちは火を囲い込み夕食の準備中に俺はそう言った。


『ミルドは弟子を取ってその弟子たちとともに小さな村のような工房を使っていてな。 そこに行った時に必ずミルドと名乗る爺さんが出てくるが、そいつはミルドじゃないってことを覚えておいてくれ』


それから俺は簡単にミルドの工房について話し、夕食を食べて寝ることになった。

そして、次の日。 俺たちはミルドの住む工房を下に見ていた。


「わぁ、カルデラだ!」

『カルデラ?』


ミルドの工房を見た時から、蒼がずっと言っているカルデラについて気になり聞いた。


「カルデラは、火山の噴火などによって窪地になったところを言うはずだよ?」

『ふぅ〜ん、そうなんだな。 それじゃあ行くぞ』


俺たちは窪地の中に降りてミルドの工房に向かっていると遠くから呼び声が聞こえてきた。


「おぉ〜い!! 蒼!!」

『呼ばれているみたいだぞ、蒼』

「誰かな?」


呼ばれる声の方を見ると、人影がこちらに向かって走ってきているのが見えた。


「祐樹!」


蒼も走ってくるのが誰かが分かると走ってくる存在に向かって走り出した。


ん? 祐樹? あの勇者がここに来ているのか? タイミングがいいのやら悪いのやらわからない時に来てくれたな、本当。


そう考えながらもロゼの肩に上がり蒼と勇者を見た。

蒼は、勇者に近づくと勇者に飛びつき勇者は勢いを殺しながら受けた。


『おぉ、凄え(棒)』

「そうだね」


ロゼは、面白いものを見れたという感じで言った。


「アオイは凄い勢いだったね」


ロゼは勇者と蒼のもとに辿り着くと話し掛けた。


「げっ」


げってなんだよ? げって。 俺とロゼってそんなに勇者に嫌われる?

そう思いながらもアリシアの方を見ると、今回も嫌われてるねぇと目で言ってきた。


「こんにちは、ロゼさん」

「こんにちは、ユイさん」


勇者の後ろからひょっこり現れた聖女はロゼに挨拶をして、蒼に向き直った。


「祐樹に蒼。 何をしているのですか、公衆の面前で恥ずかしくないのですか?」


聖女にそう言われて勇者と蒼は今の自分たちの状況を見てプュッと音が鳴りそうなほど顔を赤くして離れた。


「コホッ。 久しぶり結衣、祐樹。 元気そうでなによりだよ」


誤魔化すようにわざとらしい咳をして、勇者と聖女にそう言った。


「そちらこそ元気そうでなによりです。 というより、何があったのですか?」


聖女にそう言われた蒼はうっと、引き攣った笑みを浮かべた。


「えっと、いい師匠に恵まれて立ち直ることが出来ました! みたいなことがありまして……」


おい! 聖女たちから目を逸らしながらこっちを見るな! 俺が怪しまれるだろうが!


「へぇ、また、狐さんが何かしたのかと思いましたけど、違うみたいですね」

「へっ、あ、う、うん。 そうだよ」


聖女の言葉に一瞬あっけに取られた蒼だがすぐに立ち直り肯定した。


「ところで、結衣と祐樹は何をしていたの?」

「修行だ!」

「魔法習得を少々」


二人とも強くなるために三ヶ月修行していたんだな。 あ、嫌な予感がする……。


「蒼! 二対二をやってみようぜ!」


ほら来たよ。 めんどくさいやつだよ! これはもう……。

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