グレン編
第28話 届かなくてもいいじゃないか
あれから一日ずつ数えて三ヶ月が経った。
つまり、今日この日に学院を出て行くことになっている。
『意外だったな、蒼がアリシアと俺の両方の弟子になりたいって言うのは』
あの時、蒼は俺たち両方の弟子になると言った。
それから、午前は俺がロゼと蒼の二人に魔法と魔術を教えて、午後からはアリシアに剣術を教えてもらうそんなことを毎日繰り返していた。
アリシアに剣術を教えてもらっているときはロゼも一緒に教えてもらっている。 だが、ロゼは剣の才能は皆無で短剣ならある程度使えるくらいだった。
それでも腐っても『剣姫』三ヶ月ほどで二人とも人間の領域を大きく超えてしまった。 剣だけの戦いであれば
『はぁあ、どうやったら三ヶ月で化け物が出来上がるんだよ……』
大きくため息をつき、学院最後の剣の稽古をつけてもらっている。 というか、地形を変えてしまわないかハラハラしながら見ている。
『地形を変える変えない以前に何で瞬動を使えるんだよ、あの二人』
目の前で人が消える現象が幾度も起こっている。
瞬動とは、縮地の短距離バージョンのようで縮地と違うのは移動した先ですぐに切り替えが出来たりして結構便利な技なのである。
「ここまで!」
パンッと、アリシアが剣を地面に刺して手を叩くと、瞬動で移動して来たロゼと蒼が左右で剣を喉元に当てていた。
「はぁー、疲れたー」
「アリシアさん、速すぎていつ反撃が来たかわからないですよ」
二人とも地面に仰向けで倒れアリシアに向かってそう言った。
「場数と経験が天と地の差あるからね。 負けられるわけないわよ」
そう平然と汗ひとつかいていないアリシアが倒れている二人を覗き込みながら言った。
『二人ともお疲れ。 剣だけだと
「そうだといいんだけど、あの時の魔物にはまだまだ届いていないような感じがするのよ」
蒼が息を切らしながら俺に向かってそう言って来た。
あの時の魔物とは
それに、勇者や聖女と共に戦える道があるのならそちらを選ぶと決めていたのからしれない。
『届かなくてもいいじゃないか、今はまだ……』
「それじゃあ意味がない!」
『いいや、意味はあるさ、届かないって感じるんじゃなくて少しだけでも近づけたって思う方が大切なんだ。 それだけで、視野が広がる、選択肢が広がる。 結果的にまだ届かないって思っていたものにも実は届いていたって気づけるはずだからさ』
俺は蒼に言い聞かせるように言った。
「うん……そうだね」
蒼は力なく頷きそのまま疲れて眠ってしまった。
やっぱり疲れていたか、疲れたりしていると変なことを口走る時があるからな、多分……。
「グレン、今日で終わりだけどどうするの?」
『どうするって何をだ?』
「これからのこと」
『あぁ、それならミルドのとこまで行く間も剣を教えてやってくれよ』
「うん、わかった」
これで、さらに強くなるな。 あの勇者よりかは確実に強くなっているはずだ、魔術と剣術の両方とも。 ロゼも同じぐらい強くなっていて、蒼とロゼが模擬戦をするとロゼが勝つのだが、水場が近くにあると蒼が勝つ。 つまり、ところと場合によって勝敗が変わるという拮抗た力関係になっている。
『じゃあまた明日頼むよ』
アリシアに寝ている蒼を抱いてもらい、起きていたロゼは歩いて部屋に戻った。疲れているロゼはゾンビに間違われそうな歩き方だった。
「そうだな、明日の明朝に出るのだろ?」
『あぁ、明日から二週間ほど時間をかけてミルドのところまで頼む』
「二週間かけて行く気なの?」
『三日間走って行くとかは無理だからな?』
「え、嘘!?」
え、嘘!? ではないだろ、お前は三日でここからミルドのいる場所まで走破できたとしても、俺たちはお前の走りについていけないし、そこまで行ける体力すらないだろうしな。 「じゃあ、明日ね」 そう言ってアリシアは部屋に帰っていった。
『ロゼももう寝とけ、今日はあいつが最後だからって奮発しすぎていたからな』
「ふぁい」
ロゼの返事はあくびが混ざって変な感じの返事になっていた。
『俺も寝ないといけないな』
ロゼが寝室に消えて行くのを見送ってから俺は独りそう言った。 今は、完全に陽が落ちてすぐぐらいだから、いつも寝ている時間にはまだまだあるが、明日の朝のことを考えると今から寝ておいたほうがいいからな。
『蒼とは最悪ミルドのところでお別れか』
俺は、蒼はミルドのところで抜けると感じていた。 何故なら、勇者の武器を俺が壊したから新たな剣を手に入れるために、またミルドのところで剣を手に入れるはずだ。 だから勇者と聖女に会うような気がしてならなかった。
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