第45話 だから違うと言ってんだろ!?
俺とロゼ、アリシアは、ミルドの工房の応接室へと案内された。 蒼は、アリシアの部屋で休んでいるらしい。
そこには、ソファーが対面するように二つあり、俺とロゼが並んで座り、対面にはアリシアとミルドが座った。
「お前のその姿はどういうことだぁ?」
別れたアカギはというと、アリシアの姿を見てカチコチに固まっていたから俺のことに関してはまったく聞いていないと思う。
「これは
「ほう、何日もつ?」
「半年か一年ぐらいもつはずだ」
俺がそう言うと、横から刺さるような視線を感じる。
これは、ロゼだな。 勝手に大量の魔力を持っていったんだから怒るのも当たり前か……
「ふ〜ん、最後に一ついいか」
「いいぞ、なんだ?」
「お前の本体はどこにある」
そうきたか、俺が妖狐なのは見てわかるが俺が人だった時の身体がどこにいったかが気になっているからだろう。
それでもその答えには少しだけ詰まってしまう。 俺の身体が魔王幹部のものになっているその事実だけが俺の口の中にへばりついて言うのを躊躇わせている。
「あぁ……それは、な……」
ただ一言言えばいい、そう考えていても言葉を紡ぐことが出来ない。
「どうしたんだよ、早く言えよ」
不思議そうな顔をしながらそう言ったミルドのことを直視出来ない。
俺はミルドやアリシアになにかを言われることで傷つくのを恐れている。
「えっと、その〜」
声は出るが、その先が出ない。
「賢者グレンの身体は魔王幹部に乗っ取られていました」
その言葉がやけに遠く聞こえた。
そして、俺の足元が崩れていく錯覚を感じた。
「そうか……グレン、お前、災難だったな」
「あぇ?」
てっきり失望されると思っていた俺の頭をミルドはポンポンと叩いた。
「? どうした?ーーほほう、失望でもされると思ったか? お前の身体が奪われたぐらいでそんなことを思うわけがないだろ?」
ミルドにそう言われただけで、ホッとした。
「それに、お前が弱体化しただけなんだからいいじゃねぇか」
「まぁ、そうだけどよ……」
まさか、ミルドにそんなことを言われるとは思わなかった俺は、照れ隠しに頬をポリポリとかいていた。
「それでだ、アリシア。 あれをグレンに」
「はいはい、グレン。 これを」
アリシアは俺に向かって小さい袋を投げた。
それを、俺は受け取り中を見た。 その中には、青色をした半透明の石が詰まっていた。
「俺の魔力を溜めた魔石か……助かる、正直これがないと結構キツい」
魔石は、人の魔力を溜めることが出来、それを噛み砕けば、自分の魔力として出来るようになる便利なものだが、大量に使うとあまり効果がない。
「ミルド、前に頼んだ装備は出来ているか?」
「出来ているが、お前使えるのか?」
「んや、ロゼに使わせる。 あれは、ロゼが使う方がいいと思うからな」
「そうか……」
そう呟くとミルドは立ち上がり応接室から出ていった。
そうして、しばらく待つと一本の枝を持ってやってきた。
「ほれ、『世界樹の杖』だ」
「あ、ありがとうございます」
ミルドは、ロゼに向かって投げながらそう言った。
ロゼは、少し危なそうにキャッチして礼を言っていた。
「よかったな、彼氏からの贈り物でな」
「彼氏じゃねぇよ」
「彼氏だろ?」
「違う」
「彼氏だろ?」
「だから、違うって言ってんだろ!? 俺とロゼは師弟関係だ!」
ミルドは、俺をからかうように笑っていた。
「ハハハ、そうかっかすんなって、からかっただけだろ? お前らが師弟関係なんて見ればわかるからよ」
完全に遊ばれていた、考えてみれば簡単にわかるはずなのに安心しすぎていたみたいだな。
「クソッ、調子が狂う。 はぁ〜、なんでだろな」
俺は、大きなため息をつきながらそう呟いた。
「気を抜きすぎでしょ? いつもの覇気がまったく感じないんだもん」
「そうなんだろうな。 それに、ロゼと蒼に俺たちのことも話さないといけないしな……」
「そうよね、グレンが私のことを女狐と呼んでいることに関係あるからね」
今の一言は別におかしくないと思うんだけどなぁ。
それはいい、このままロゼと蒼を弟子として育てていくのであれば、必ず知っておかなければならないことだ、俺たちの過去の過ちを……。
「ん? なんだお前ら、まだ言ってなかったのか?」
「言ってねぇよ。 こっちだって色々あったんだからよ」
そう色々だ。 俺とアリシアの気持ちの整理とロゼと蒼が俺たちの真実を知っても信じてくれるそれが問題だった。
だから、俺は賢者じゃない。 そんなに割り切れたことが出来るわけがない、大切な存在だったから。
「そうか、んじゃあ、明日にした方がいいだろ。 グレンたちは、旅の疲れを癒した方がいいだろ」
「あぁ、そうさせてもらう」
俺とロゼは応接室を出た。
ただ、俺の家に着くまで俺とロゼの間に会話はなかった。
ロゼは、何を話したらいいかわからず、俺は自分のことで手一杯になっていたから、自然とそうなってしまったのだろう。
それでも、それはすべて明日終わる。 これで、あと残りはなくなるはずだ。
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