過去編

第46話 なんで俺だけ……

これは、グレンがまだ賢者と呼ばれる前、約二百年以上昔の話である。


♦︎


「うぁあ……」


泥の中から身体を引き上げる感覚とともに俺は目を覚ました。

俺は今年十五になったばかりで、冒険者生活を始めて約一年半、この魔術師の世界は俺には生きにくい。

俺は、魔術が使えない。 アリシアもミルドも人並み以上に使えるのに俺は使えない。

だから俺はアリシアとミルドにとって荷物だと思っている。


「エルフの国で何か変われればいいけどな……」


俺たちは、今とある依頼でエルフの国に向かっている途中である。

エルフの国では、神秘の力が使われているらしいが、何故使えるかは、未だに解明されていない謎だ。


「おはよう」


俺たちは、今エルフの国近くの街で一晩を明かした。

その宿兼レストランに俺たちは集合した。


「おはよう、グレン。 相変わらず朝は弱いのね」

「おはよう」


アリシアは、俺の姿を見て苦笑しながら、こちらを見上げていた。 一方で、ミルドは、昨日買った本に目を落としながら、ぶっきらぼうに挨拶をした。


「グレン、さっさとご飯を食べないとエルフの国に入らないわよ?」

「はいはい、それにしてもよくアイアンの俺たちにこんな依頼が来たよな」


俺たちが受けた依頼は、『エルフの神秘の調査』という不思議な依頼だった。

何が不思議かというと、こんな一介の冒険者にエルフについて調べて欲しいと出ること自体がありえないことなのだ。

依頼されるにしても、シルバーゴールドあたりが妥当なはずなのだから。


「そんなことはどうでもいい。 エルフについて知れるのならば、好都合だ」

「ハハハッ……相変わらずだな、ミルドは」


そして、俺たちはエルフの国『フォレスト』にやってきた。

『フォレスト』は、文字通り木々に覆われた国で至る所に弓を持ったエルフがいる。


「お主たち、我らが国に何用だ?」

「俺たちは依頼でこの国に来ました」

「いつものやつか……よかろう、通れ」


俺たちを止めたエルフは、呆れたように呟きながら俺たちに通行の許可を出した。


『フォレスト』は、とても幻想的な世界だった。

エルフと木々が共存しているという言葉がふさわしいと思う。


「すごいね、これは」

「ウッドハウスを吊り橋と丸太橋でつないでいるから、不自然さがないのか」


感心しているアリシアと徹底的に観察するミルドを傍目に俺は、‘‘とある’’光景に目を奪われた。

それは、手のひらから水を生み出しているようにしか見えなかったが、俺はそれを一目で理解できた。 否、理解させられたと言った方がいいかもしれない。


「これが、魔術とエルフの神秘の違いか……」

「何か言ったか? グレン」

「何にも」


ミルドにつぶやきを聞かれていたが、俺は否定をした。

まだ、確証が持てていないのだから、ミルドやアリシアに言う必要はない。


「それに、なんで俺だけ……って思っていた時は、もう終わりだからな」


今度はミルドに聞こえないほどの大きさでつぶやいた。


♦︎


俺たちは、今フォレストの王城である世界樹の根元にいた。

王城と言っても、王城の離れにある書庫みたいな場所で話を聞いたり、本を読み漁ったりして納得のいく成果が出たら帰って報告するだけという簡単なお仕事である。

まぁ、フォレストに着くまでが危険だから俺たち以上のランクじゃないといけないのだが。


「人族に聞かせても理解できるようなもんじゃない!」

「そんなこと言わずにお願いします」


俺たちは、書庫で語り部と呼ばれているエルフの話を聞く予定だったのだが、語り部のエルフは会った時からこのような感じだった。


「仕方がないのぅ。 少しだけじゃからな」

「ありがとうございます!」


必至に説得をしてやっと話してくれる気になってくれた。

というか、語り部の話を聞こうとしているのは俺だけなんだけどな。

アリシアは、「素振りしてくる」と言ってどっか行ったし、ミルドは、「資料を集めるよ」と言ってどっかに行ったからここにいるのは俺だけなのだ。


「それじゃあの、我々が使うものは魔力を具現化したものと言われておる、外の者が使うものは魔力を流しているだけなのじゃよ」

「ふむふむ、わかりました。 魔力の具現化ですね」

「ホッホッホ、何を言うかと思えばのぉ」


俺はわかったように頷いた。

それが、おかしかったのか語り部のエルフは面白そうに笑っていた。


「何がおかしい?」

「いや、なんじゃ、そう言う奴は山ほどおったのじゃが、誰一人としてそれが出来たものなどおらんのだからのぉ」

「やって見せればいいんだろ?」


俺はそう言って、右手を語り部のエルフに見えるように上げて右手に魔力を集める感覚を持って俺は一番身近なものを思い浮かべて、手のひらに出現させようとしたが、失敗した。


「ホッホッホ、じゃから言ったろう、お主たちには無理じゃと、しかしな、少しヒントをやろう。 思い浮かべたものを口に出して言ってみなされ」

「口に、出す……やってみようか」


俺は、もう一度先ほどと同じことを思い浮かべて口に出した。「火球ファイアボール」と、それは見事に俺の右手に出現して、エルフの語り部を驚かすことに成功した。



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